第10話 『ざまぁ!』のための第一歩
僕は船の地下3階(後で知ったけど、デッキの3階って呼ぶらしい)で目を覚ました。
ロウソクの明りが灯る船員室。
そこが僕の寝床だった。
「おい、新入り。もうすぐ着くから準備しとけ」
「はい」
僕に指示するこの男は、この船の副船長だ。
この船はね、スライム島から大陸(グラン達、元パーティのメンバーがいる)へ『スライムの欠片』を運ぶ船さ。
スライム島と大陸は30kmほど離れている。
そこを1日掛けてゆっくり『スライムの欠片』を運ぶ。
僕のここでの仕事は、大陸に着くまでの間『スライムの欠片』を見張ることと陸におろすことだ。
何で僕がスライム島を抜け出して船員になれたか、だって?
それはね、ちょっと話がさかのぼるけど……
◇◇
「こんな島で『商才』なんてスキル身に着けても使うところがありませんよ」
僕はディオ王に愚痴った。
「ケンタよ。お主は大陸に渡るのじゃ」
大陸には沢山のチャンスがある……だけど……
「え? ……そんなこと出来るわけないじゃないですか?」
どうやって親衛隊の監視をすり抜けてスライム島を出るのか?
僕には思いつかなかった。
「わしに名案があるのじゃ」
「はい」
「この島の長の息子がお前にそっくりなのじゃ」
「はい」
ディオ王がその人を呼んだ。
奥の暗がりから、僕に似た人が現れた。
だけど、近くで見るとちょっと似てないかなあ。
僕の方がカッコいいよ。
「はじめまして。ルキといいます」
「こちらこそ。はじめまして。ケンタといいます」
「ケンタさん」
「はい」
「あなたとディオ王様のやりとり聴かせていただきました。グラン討伐の件、私にも協力させて下さい」
「は、はあ……」
僕はまだ話が見えてこなかったから、曖昧な返事をしたんだ。
「要するに、ルキはお前の替え玉として強制労働に勤しんでもらう。お前はルキとして振る舞いこの島を抜け出すのじゃ」
ディオ王はそう言った。
僕はそれでいいのかと、ルキに尋ねた。
「大丈夫です。私達、島民はグランのせいで住む場所を追われました。あなたがグランを憎いように私もグランが憎いのです」
ルキはそう言うと、金が入った小袋を僕に手渡した。
「頑張ってください」
「はい」
◇◇
こうして僕は『ルキ』と名乗り、船に乗り込んだ。
幸い、船員は常に募集していたのですんなり入り込むことが出来た。
甲板に立った僕は水平線から出てくる太陽を見て、感動したんだ。
そして、どんなことがあっても頑張ろうって誓ったんだ。
港に接岸した船から、袋に入った『スライムの欠片』を陸におろす。
袋は大きくてギッシリ3kgくらいある。
この中に僕が苦労して狩った『スライムの欠片』があると思うと、余計に重く感じた。
この国の通貨単位は『エン』っていうんだけど、エンに換算するといくらくらいするんだろう。
僕は監視している親衛隊の目を盗んで、少しばかり『スライムの欠片』を袋から取り出してポケットに隠した。
どうせこの仕事は今日で辞めるんだから、バレたって大丈夫。
そして、『スライムの欠片』を全て陸におろすと、船長が皆を呼んだ。
「給料を渡す」
この仕事は日給制だった。
「ルキ」
「はい」
「初日からよく頑張った」
僕は100エンもらえた。
一日中拘束されてこれだけかあ。
100エンじゃ、ヒノキの棒かオニギリ二個しか買えないよ。
「船長」
「なんだ?」
左目に眼帯を当てた髭面のイカツイ船長が、僕を睨む。
「僕、やりたいことがあるので今日で辞めさせてください」
船長のこめかみに、ミミズみたいな太い血管が浮かぶ。
それがピクピクと動き出した。
つづく
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