第67話 真実

 宴は盛大におこなわれた。

「「「「乾杯」」」」

 一同で酒を酌み交わす。

 村長は一気に酒を飲み、すぐに酔いつぶれてしまった。

 魔王は、体格のせいか酒を飲むのも、豪快だった。カツラギの世界の力士が飲むような大きな皿で、ぐびぐびと酒を飲んでいく。


 酒は日本酒、料理は魚と野菜が中心だった。

 あじつけは、しょう油や味噌で、主食は米。味噌もこちらの世界にあったのだ。やはり、この大陸は、日本に似ている。とても懐かしいあじつけに、カツラギは涙が出そうだった。


「魔人さんたちの派遣期間は延長していただければと思います」

「アグリ国は、魔大陸との交流が盛んでとても嬉しい。国民たちを丁重に扱っていただいて感謝致します」

 王と魔王はそんな話題で会話していた。

 外交のための親善旅行だから、こうなるとカツラギは相づちをうつだけになってしまう。


 魔王は、カツラギにも気をつかって何度か話しかけてくれた。

「天から落ちて来たそうですが、こちらには慣れましたか?」

 とか

「ふたりとも、仲良く暮らしていますか?」

 とか。

 カツラギは緊張で「ハイ」とかしか答えられなかったけれど……。

 顔は怖いけど、優しい声で笑いかけてくれる。

 安心できるひとだと思った。


 宴は順調に進んだ。

 その時、魔王は小声で、しかし、迫力がある声でふたりに話しかけた。

「両陛下に大事な話があります。宴の後、わたしと大臣、おふたかたでお話をさせていただくことはできますか?」

「わかりました」

 近くにいた警護担当の師団長は少し渋い顔をしたけれど、王は快諾した。

 “大事な話”。


 なんとなくだけれど、その言葉の響きに胸騒ぎする。一体、何だろうか? カツラギは不安に思う。

 官僚たちを通さないということは外交関係でもないのだと思う。


 宴が終わった後、広間にはカツラギ達4人だけが残った。

「すまないね。残してしまって」

「それで、魔王様。大事な話とは?」

 王が切り出す。

「ああ、この世界の真実についてなんだが」

「真実?」

「そう、わたしたちしか知らない真実について、君たちにも知っておいてほしいんだ。そして、よければ、わたしのお願いを聞いてほしい」

 魔王は、さきほどと違って砕けた口調となった。


「なぜ、わたしたちに?」

 思わず、カツラギは口に出してしまう。王様はともかく、カツラギにはなんの力もない。

「それは、あなたが必要だからですよ」

 大臣がそう言った。

「わたしが?」

「そうです。カツラギさん、あなたは自分が思っている以上に、重要人物なんです。この世界にも。これからの世界にも」

 魔王がそう言った。

「どういうことですか?」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 少しだけ沈黙が発生した。ほんの短い時間だが、カツラギには永遠に感じた。

 魔王が一呼吸つくと口を開いた。

「葛城さん。君はこの世界をどう思っている?」

「どうとは?」

 質問の意味がよくわからなかった。

「君のいた世界とこの世界のことだよ」

「…………。まるっきり違う世界。異世界に来てしまったと思っています」

「だろうな」


 また、少しだけ間があった。

「でも、それは違うんだ。この世界は、異世界なんかじゃない」

「えっ」

「この世界は、君のいた世界と同じ世界なんだよ。別の世界なんかじゃない」

 カツラギは変な汗がでてきた。闇に飲み込まれてしまうような、そんな不思議な感覚だった。


「すべてを話す前に、わたしの本当の姿を見せなくてはいけないね」

 そういうと魔王は光に包まれた。

 彼の身長が、少しずつ縮んでいく。

 光が消えた瞬間、玉座にいたのはひとりの初老の男だった。

 そして、カツラギはその男とは、初対面ではなかったのだ。

 イースト村で、カツラギに襲いかかってきたフードの男がそこにはいた。

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