第65話 到着

 師団長さんとのお茶も終わり、ついにふたりは魔大陸に到着した。

 アグリ国の海を渡って西側。

 魔人たちが住む大陸だから、“魔大陸”というらしい。

 名前同様、おどろおどろしい世界がそこには広がって……

 広がって……

 


 普通に日光は差し込むし、奇妙な食虫植物みたいなものもなかった。

 至って普通の大陸だ。

 これなら、カツラギの世界の南国のほうが、変わったものが多いだろう。


「案外、普通のところなんですね。“魔”大陸というからには、もっと怖い場所だと思っていましたよ」

 カツラギは王様にそう話す。

「あくまで、“魔人”が住む大陸ということですからね。体のサイズは違いますが、食べ物もわたしたちとはそんなに変わりませんよ」

 

「お待ちしておりました。アグリ国王陛下。わたくしが今回、ご案内させていただく紫炎と申します」

「ありがとう。ごうわさはかねがね聞いています、紫炎殿」

 王が一同を代表して、挨拶した。

 紫炎は紫色の肌で、身長は3mほどの大男だった。威厳がある低い声がとても印象的だった。

 一団の中に村長がいるとわかると、少し複雑な顔をしていた。

「こちらが馬車です」

 ふたりは馬車に乗り込む。

 王様とカツラギ、村長と師団長の4人乗りだった。


「ついに、着きましたね。魔大陸に」

 カツラギはそうつぶやく。ここに来たことで、何かが動き始めるような気がする。

「わしは1カ月ぶりだから、たいした感慨もないの~」

「師匠は勝手について来たんじゃないですか」

「ふん。英雄を邪険に扱うな。綾ちゃんに、美人の師団長ちゃんが一緒だというなら行かないわけにはいかないだろう」

 3人で「ふー」とため息をついた。このひとはいつもこうだ。そんなため息だった。

 場所の窓からは、村が見えた。

 巨大な魔人たちが、農作業をおこなっている。すこし不思議な光景だった。

 人間とは違う魔人だが、そこには家族があって、家があって、土地があった。

 みんな幸せな生活を送っている。


「到着まで時間がかかるから、昼寝でもしておくわい」

 そう言って村長は昼寝をはじめた。

 取り残された王とカツラギ、師団長は、雑談をはじめる。

「あれが伝説の紫炎殿か。とても迫力がありましたね、陛下」

「本当にすごい迫力でした」

 カツラギはきょとんとして、ふたりに確認する。

「そんなに有名な方なんですか?」

「「はい、それはもう」」


 彼は、魔大陸軍の伝説の将軍のひとりで、魔王軍四天王の一角らしい。

 村長とは、戦争中のライバルで因縁があるそうだ。

 この村長は、本当に歴史上の人物でもあるらしいと彼女は驚いた。昔のエピソードを聞くたびに、驚くことだらけだ。だが実際にかっこいいと思った時は、彼女を助けてくれた時だけなので、あんまり印象はない。

 

「そういえば、おふたりは、同級生なんですね。驚きました」

 王は師団長を少しにらんだ。余計なことを言わないでくれという顔だ。

「どんな学生さんだったんですか?」

 カツラギは師団長にそう聞く。

「そうですね、陛下は……」

 王の顔をチラッと見ると、少し不機嫌な顔になった。

 ふたりで苦笑いをする。

「こんな感じでとてもツンツンしていました」


 彼女はいろんなことをカツラギに教えてくれた。

 王の授業中の失敗、仲間たちとのバカ騒ぎしたこと、卒業式での号泣などなど。

 王はエピソードのたびに、赤くなったり不機嫌になったり……。


 そして、師団長はとても楽しそうに、彼のことを語り、彼も嫌な顔はしつつもどこか楽しそうだった。カツラギにはない長い月日を一緒にすごしたふたりの関係がとても羨ましく感じてしまう。


 そして、心の奥底で……


 カツラギは彼女に嫉妬していたんだと思う。

 この立場は、自分じゃなくて、彼女の方がよかったんではないだろうかという罪悪感とともに……

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