第64話 出発

 ついにこの時がきた。

 カツラギたちは、魔大陸にむかっている。

 王とカツラギ、村長を入れた3人と護衛の兵士たち、外交を取り扱う官僚を乗せた船は魔大陸にむかって進んでいく。

 2泊3日の外交旅行だ。


 つまり、3日後にはあの告白の答えが返ってくるわけで……。

 変な胸の高鳴りをおぼえてしまう。

「王妃様、ご気分が悪そうですが……?」


 近衛師団長である女騎士さんが心配してくれて、声をかけてくれた。

 このひとはまだ若いのに、師団長という重責を担っている。


「はい、大丈夫です。少し緊張してしまったのかもしれません」

 カツラギは適当にごまかす。

「それでは、お部屋でお休みください。今、ご案内します よ」

 そう言ってカツラギを連れて行ってくれた。


「今、お茶を淹れますね」

 女騎士さんはそう言って、テキパキと準備をしてくれた。

 カツラギは自分がやりますよと言ったんだけど……

「わたしも一応、女なんで。お茶くらいは淹れられますよ」

 と笑って断られてしまった。

「それなら、一緒にお茶でもどうですか。話し相手が欲しいので……」

 というと

「兵たちは内緒にしておいてくださいね」と言って、承諾してくれた。

 意外にお茶目な性格のようだ。


「こちらの世界には慣れましたか」や「天界はどんな世界なんですか?」というこちらに来てからはいつも聞かれる質問をされた。いつも通りの定型文をカツラギは答える。


 そんな話が終わると、師団長さんはしみじみとした顔で言った。

「王妃様と出会ってから、陛下は変わりました」

「変わった?」

「はい、いい意味で。なんだか肩の力が抜けたような気がします。いつも無理していたようだから、余計に」

「そうですか?」

「そうですよ。実はわたしは陛下と大学の同級生なんです」

「えっ」

「そんな驚かないでください。陛下は飛び級なので、3歳年上の同級生です」

 そう微笑みながら彼女は話した。

「ずっと年長者に囲まれて、過ごしていたせいか 。どこか無理をしているような気がして」


「気になっていたんですか?」

「とんでもない。おそれ多いですよ。無理をしている弟をみつめる姉の立場です」

 そうやって、彼女はごまかした。

 でも、その顔はどこかさびしげで、そして、悲しそうだった。

 どこかに諦めを含んだ彼女の様子にカツラギは心が痛む。

 彼女も彼のことが、大好きだったということが痛いほどわかるのだから……

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