第62話 帰路

 ガラガラガラ。

 馬車は王都に向かって、順調に進んでいる。

 村長とは、別荘で別れた。

 もう少し、砂浜でナンパしてから帰ると言っていた。

 この国は本当に大丈夫なのだろうか?と彼女は思う


 まあ、そんな風に心配しているのは、カツラギが現実逃避したいからで……

 昨日の夜、カツラギはついに王に告白した。

 夫婦なのに告白というのもおかしいけれど、ふたりの関係は特殊なんだからしょうがない。

 昨日の出来事を思い返そうとすると、すぐに思考がわき道にそれてしまう。

 カツラギにとってはそれほど、思いだしたくない黒歴史というわけでも、ないはずなんだが……


 結論から言おう。

 王の回答は「保留」だ。

 そう、「保留」、現状維持、そのまま。なんとでも言えばいい。

 結論は宙ぶらりんのまま。


「わたしはあなたのことが、大好きです」

 カツラギは思いのままを、彼にぶつけた。

 彼の気持ちや思いを踏みにじる行為だと知りながら……。


「………………」

「………………」


 そう言った後、ふたりの間には、長い沈黙が生まれた。

 いつもなら、そんなに気まずい沈黙ではないんだけど、この時に限っては、ふたりにとって気まずかった。


 王もカツラギのスマホの写真を見たことから悩みが生まれていた。


 そして、カツラギは馬鹿なことを言ってしまったのだ。

 自分が開けたパンドラの箱を、自ら閉じようとする愚かな行為を。

 

「答えは、魔大陸から帰るときに聞かせてください」

「えっ」

「その時まで、待ってますから」

「わかりました」

 彼は力強く答えた。

 

 以上、回想終わり。

「はー」

 カツラギは大きなため息をつく。

 自分がこんな弱虫だとは思わなかった。

 ベットをゴロゴロ転がりまわりたかった。昨日は、王様と同じベットに寝たからできなかったけれど。「今日の夜こそは、」と謎の決心をカツラギは決めた。

 宰相の策略で、カツラギの部屋無くなっていなければいいなと考える。嫌な予感がした。


 王は、窓から見える風景を見ている。

 いつもとは違って気が抜けた感じだ。

 それもそうだよな。いきなり、カツラギが背中から切りつけたような感じだし……。

 

「(いけない、いけない)」

 彼女はどうしても、ネガティブな気持ちに支配されてしまう。


「カツラギさん、あの」

 王が急に話しかけてきた。彼女はこれにも嫌な予感がした。

「はい」 

「昨日の話なんですが……」

 やっぱりだ。

「ダメです」

 カツラギは、慌てて王の話を遮った。

「えっ!?」

「昨日も言ったじゃないですか。答えは魔大陸の帰りです。それ以外の時は聞きませんから」

 自分で言っておいて、そうとう理不尽な話だ。

「でも」

「ダメです。心の準備ができてません」

 カツラギはひたすら拒絶した。

「わかりました。じゃあ、その時まで」

「ごめんなさい」

「大丈夫です。じゃあ、その時までは、昨日までに戻りましょう。このままでは、気まずすぎますよ」

 王は力なく笑った。

「はい」

 カツラギも同意した。


 パンドラの箱の故事には、最後に希望だけが残ったと聞く。

「(ふたりの関係に、希望ってあるのかな)」

 また、ネガティブになってしまうカツラギだった。 

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