第56話 ふたりの朝
王はいつも通りの時間に目がさめた。
魔術の練習をしている癖が旅先までに出てしまった。
せっかくの旅行中なので、もう少しゆっくりすればよかったななんて考えていると腕に違和感を感じる。なにか人の頭のようなものがそこにはあった。
それに気がつき、王は目をしっかりと開けた。
横には、カツラギが…………
彼に抱き着いて眠っていた。
王は声にならない悲鳴をあげる。
「(どうしてこうなった……)」
「あ、あの、カツラギさん??」
「おはようございます。王様」
カツラギはあたかも今起きたような声で、あいさつをする。実はすでにおきていたことを内緒にしながら……
「あ、あのどうして、こんなことに……」
「昨日のことおぼえてないんですか?」
「えっ」
彼の顔が少し白くなったように見えた。
「冗談です。王様が寝ている間に、どんどんこっちに来てしまって……」
「来てしまって?」
「覆いかぶさるように、寝返りを打ったんです」
「失礼しました」
「ビックリしましたよ」
王の顔が真っ赤になった。
彼女の言葉をもっと正確に言うと
「(わたしがあなたに)覆いかぶさるように、寝返りを打ったんです」であるが……
昨日の夜のことは彼女にしかわからないのだから、少し調子にのっていた。
「恥ずかしいですね」
王は消えそうな声でそうつぶやいた。
「かわいいですよ、とっても」
カツラギはさらに王をからかった。
「あんまりからかわないでください」
「本音です」
「くううう」
彼は変な声を出して、背を向けてしまった。
「(でも、これが私の本音なんだからしょうがない)」
「ごめんなさい、少しからかいすぎました」
そう言い彼女は彼の背中にぴとっとくっつく。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ」
冷静な王が、小声だが発狂した。
どんだけ初心なんだろ、このひと、ああ、楽しいなとカツラギは思った。
だって、好きなひとと、こんな何気ない時間を過ごせているんだから、本当に幸せだった。
今日も楽しい一日がはじまろうとしている。
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