第52話 海

 どのくらい海をみていただろうか?

 もう夕日は完全に水平線の向こう側にいってしまい、ふたりは暗い海を飽きることもなく見続けていた。

 繋いでいた手は、まだつながれていた。

 月が空に顔をだしている。

 本当に絶景だった。

 このまま、時間が永遠に続けばいいのに。

 月並みの言葉だが、それがまがうこともない本心だった。


「プロポーズしてくれた前日を思い出しますね」

 カツラギはポツリとそう話す。

「あの日は、お恥ずかしいかぎりで」

 フードの男との闘いのことだろうか。

 あの謎の男はいまだに、謎のままである。

 彼女が再び命を狙われることはなかった。

「そんなことないですよ。本当にかっこよかったです 」

「ありがとうございます」


<トントン>

 部屋にノックの音が鳴り響いた。

「両陛下、夕食の準備ができました」

「ありがとう。今、行きます」

 もう終わってしまうのか。

 最高の時間だったのに……

 

 彼女は名残りおしそうに、無意識に手に力を入れていた。

「カツラギさん、痛いですよ」

 そう言われて気がついた。

「ごめんなさい」

 慌てて、謝った。

 そして、ふたりは笑い出す。

 とくにおかしいことは、なかった。でも、なぜかおもしろかった。

 

「今日はどんなご飯ですかね?」

「海産物をメインにした食事の予定です」

「それは楽しみですね」

「ハイ」

 朗らかな会話だった。

 3か月前、転生したときとは違って、この世界 はモノクロではなかった。

 カラフルな世界になってきている。


「これが永遠なのかな」

 カツラギは彼に聞かれないようにそう言った。

 ふたりが触れ合った時間は、本当に短かったかもしれない。

 でも、この時間を彼女は忘れることはできないだろう。

 この時間は、彼女が世界で一番好きなひとと過ごした大事な時間なのだから。

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