第50話 別荘
少し太陽が落ち始めたころ、ふたりは別荘に到着した。
「さあ、カツラギさん。別荘に着きましたよ」
(わたしたちはついに別荘に到着してしまった。
ここまで、来るのにいったいどれだけの犠牲を払ったのだろうか。
主にわたしの精神に……)
カツラギはさきほどの、隠し撮り写真発覚には焦ったが、なんとか切り抜けることができた。
「あれれ~、おかしいですね。いつのまに……。あっ、そうだ。確かこの前、夜にスマホを操作していて、間違って、カメラを起動させちゃったんだな。きっと、そうだ」
あまりにも、白々しい言い訳だった。
王が少し疑惑の表情になっていたので、彼女は専門用語で畳みかけた。
「ですから、アプリを間違えて起動させちゃって、クラウドにピクチャーをいれちゃったんですね。よくまれにある、誤作動なんで、気にしないでください」
(<よくまれ>ってなんだよ、自分)
しかし、この意識高い系の専門用語のおかげで、王様を煙に巻くことはできたのだった。
現代人が聞けば、ツッコミどころ満載の発言だが、この世界のひとにはわからないので、セーフだ。
なにが、セーフかって?
そんなの彼女にもわからない。
夏休みということなのか、彼女たちは少し浮かれていた。
いつもの王宮を離れての生活。
ひとめを気にしないで、変な冗談も言えるし、とてもリラックスできる。
お互いに変なテンションになってしまっていたのだ。
今後、待ち構える宰相の策略を知らずに……
別荘は、思ったよりも質素だった。
質素といっても、それは王宮に比べてという意味であるが。
少し大きなホテルのような別荘だった。
「王城に比べると、こじんまりとしていますが、これは歴代の王が、夏を休むために作られたものなので」
「なるほど、完全にプライベート用なんですね」
「はい、重要かつ緊急の仕事の話以外はここにもちこませないようになっています。歴代の慣例ですね」
(なんとうらやましい。休みの日でも、バンバン電話をかけてきた前の会社に言ってやりたいくらいだ)
「陛下、お待ちしておりました」
「うん、ありがとう」
管理の執事たちが出迎えてくれた。
海の近くにあるせいか、波の音まで聞こえてくる。
窓から見えてくる海は輝いていた。
夕日が反射している。
「とてもきれいな海ですね」
「ええ。この海岸は、この期間は貸し切りなので、明日から存分に楽しんでください」
「楽しみです」
彼女にとって海なんて、学生時代以来だ。
社畜時代は、夏休みすらろくにとれていなかった。
海を貸し切り。最高の気分だった。
「それでは、お部屋に案内しますね」
ふたりは執事のひとに連れられて、部屋に案内された。
扉を開けた時、そこには驚きの光景が待っていた。
彼女たちは顔を見合わせて、赤くなる。
広く清潔な部屋。
窓から見えるオーシャンビュー。
最高の部屋だった。
ひとつのことを除いて……。
ベットが…………
ベットが……
ベットが
ひとつだけしかなかった。
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