第49話 動揺

 昼食を終えて、ふたりはメディウム村を後にする。

 昼食会は大成功に終わった。

 それは本当によかった。

 そう、それは……


 そして、馬車の中は、お通夜モードだった。

 一日にして、黒歴史をふたつも作ってしまったカツラギたち。


(たぶん、今日はさらに増え続けることになるだろうな。

 もうやだ、こんな生活)


 などと思いつつ、馬車は進んでいく。


「あの王様……」

「どうしました?」

 もう、あの黒歴史を忘れるために、カツラギは陛下と世間話をしようと決心した。


「実はですね……。前の世界から、機械をもってきてしまったんです」

「そうなんですか?!それは拝見したいですね」

 やはり、王は食いついてきた。

 彼女はスマホを彼に見せる。あの充電が減らない謎のスマホだ。


「これはなんですか?ボックス?」

「スマートフォンというものです。なんでもできる魔道具だとでも思ってください」

「魔道具?本当になんでもできるんですか?」

「ええ。でも、元の世界と離れてしまったので、機能は制限されていますが」

「そうなんですか……」

「制限はされていますが、それでも色々できます。例えば……」


 スマホを操作する。電子書籍リーダーを開いて見せる。

「このように、本を読んだり……」

「……」

 カメラを起動し、自撮りをする。

「このように瞬時に、絵を作ったりすることもできます」


「なんと、精巧な……」

 王様は驚愕の顔を浮かべる。

 この世界でスマホはまさに、オーパーツだ。

 どうやって、操作をするのか、興味津々に聞く王。


 一通りの操作法を教えて、カツラギは王様にスマホを渡した。

 これが最大のミスだと知らずに……。


「すごいです。映像まで残せるんですか!」

 画面が割れて見にくいスマホをまるで少年のような目で見つめている。

「そうですね。わたしの世界ではこれを応用して、演劇を流したりもしています」

「すごい、すごい。夢のような魔道具ですね」

 興奮している様子が、とても可愛らしかった。


「これは記録しておいて、どこでみるんですか?」

 王は飽きずに、スマホに食いついている。

「ここの赤いマークですよ」

「なるほど」

 王様は画面を高速でタップした。

 

 アルバムを開く。

 そして、彼女はあれに気が付いたのだ。

 この前の夜に、隠し撮りした王の写真がそこにあることに……。

 

(きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 あああああ)

 慌てて、王の操作を止めようとしたが、時すでに遅し。


「あれ、わたしの絵がありますね。寝てる時のやつかな……」

 今日のカツラギの黒歴史はドンドン量産されていく……。


 そして、王は、カツラギと見知らぬ男性が映っている写真があることを見逃さなかった。

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