第46話 海へ

 ザザーン、ザザーン。

 海が青く光っている。

 本当にきれいな海だった。


 季節は夏。

 夏と言えば、海。

 というわけで、今、海に来ている。

 王様とカツラギのふたりだけで……。

 もちろん、護衛のひとやお付きのひとはいるが――

 宰相の策略で、基本的にはふたりっきりで過ごすようになってしまった……。

 発端はいつもの夕食の席だった。

「せっかくの新婚なんですから、夏休みを兼ねて海の別荘に行ってきてください。ふたりっきりで」

「「むり」」

 と全力で拒否したふたりだったが……。


「実は、家臣や住民たちから疑問の声があがっているんですよね~」

「……」

「王様と王妃様が別のベットで寝ていると噂されたり……」

 痛いところをつかれた。

「結婚式以来、ふたりっきりで公の場に姿を現さないのは変だとか言われたり……」

 冷や汗が噴出してきた。

「なんだか、新婚らしくないってみんなが言っています」

「「……」」


「そこで、みんなが納得してくれるように、おふたりには既成事実をつくっていただきます。拒否は認めません。わかりましたね」

「「はい」」


 こうして、ふたりは「ドキっ、契約夫婦のワクワク新婚旅行・ポロリはありません(涙)」に旅立つことになってしまった。


 そして、旅行先では、宰相さんから任されたラブラブミッションをこなさなくてはいけないのだ。

 命令書は、封筒に入れて渡されている。

 指定された場所で開けなくてはいけない魔の命令書が。


 そして、最初のミッションは、王都の城門で……。

「「うん」」

 ふたりで顔を見合わせて、封筒を開ける。

 民衆がこの前のように、馬車を取り囲んでいた。


 ビリビリっと開けると……。

 こう書かれていた。

「みんなにみえるように、手をつなぐ」と……


「オーマイ―ゴッド」

 カツラギはこころの中でそう叫んだ。

 しかし、やらなくてはいけない。

 そうしなければ、より怪しまれてしまう。


 わたしたちは無言で、手を近づける。

 少しだけ触れた。彼の体温が、わたしの手に伝わる。

「あっ、ごめんなさい」

 王様はあわてて、手を放してしまった。

「こちらこそ」

 ふたりで顔が赤くなる。

 どこの中学生だよ。自分たち……。

 

「じゃあ、繋ぎましょうか」

「はい」

 ドキドキしながら、彼女は再び手を近づける。

(手をつなぐことが、ここまで大変なことだと思わなかった)

 ゆっくりとわたしたちは、手をつないだ。


(汗とか大丈夫かな。こんな初々しいことを考えるとは思わなかった)

 馬車の外から

「きゃー、ふたりとも手をつないでる。ラブラブだわ~」

 なんて声がして、ふたりはさらに顔が真っ赤になった。


 ここでカツラギの中の変なスイッチが入ってしまった。

 入ってしまったからにはもうしょうがない。

「王様、恥ずかしいんですが、このつなぎ方では、あんまりカップルっぽくないです」

「そう、なんですか?」

「そうです」

「では、どうすれば?」

「そうですね……」

 自分でやっていて、さらにドキリとした。

「指をつなぎましょう」

 そういうと、ふたりの手は絡み合った。

 彼の体温がさらに伝わってくる。

 頭は真っ白だった。


 ただ、幸せだった……

 どうしようもなく、幸せだった……


 外の喧騒は、さらに大きくなっていた……

 

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