第41話 ポトフ
「今日は、カツラギ様が食事を作ってくれたそうで」
いつもの3人での食事で、宰相がそう口を開いた。
カツラギの胸が高鳴り、顔が熱くなる。ごはんを作っただけで、ここまで緊張するのはなぜだろうか?
「それは楽しみですね。カツラギさんは料理が好きと言っていましたからね」
「たいしたものを作れなくて、お恥ずかしいんですが……」
そう、本当にたいしたものは作れなかった。コック長さんも、簡単すぎてポカンとしていた。
だって、しょう油もみりんもこの世界にはない。日本食なんて作れるわけがないのだ。
そして、食事が運ばれてくる。すべて、彼女が作ったものだ。今回は3品。
カチャカチャという皿が擦れる音がする。ああ、本当に緊張してしまう。
「こ、こちらが、ガーリックチーズトーストです。パンにすりおろしたガーリックを塗り、チーズと一緒に焼いた料理です。そして、こちらがカチャトーラです。鶏肉をトマトとハーブで煮込んだもので……」
(ああ、料理が趣味というのが恥ずかしいほど、簡単な食事だ。なるべく失敗しないものをと作ったが、よく考えれば庶民的すぎる気がする。そして、最後が……)
「ポトフです。野菜とベーコンを煮込んで、塩で味付けしたスープです。よく母が作ってくれていたので、懐かしくなって作りました。すいません、簡単なものばかりで」
コック長は、トーストとカチャトーラは珍しい作り方だと言ってくれたが、ポトフに関しては反応はイマイチだった。
「懐かしいな。故郷の味を思い出しますね」
そんな反応だ。作り方が作り方なので、ありきたりなものだろう。
(ガーリックトーストとトマト煮込みがないのはビックリしたが……)
「とても美味しそうじゃないですか!」
王はとても喜んでくれた。社交辞令かもしれないが、カツラギは少しだけ安心した。
「兄さんはシンプルな料理が好きですからね~。でも、いい匂いで、本当においしそうですよ」
弟はすこしだけ、呆れ気味だ。
「「では、いただきます」」
ふたりは食事をはじめた。彼女は、怖くてそれを見ることができない。
モグモグという音と、カチャカチャという食器の音だけを聞いていた。
「あの、どうですか?」
彼女がおそるおそるそう聞くと、ふたりは……
「「とても、美味しいですよ」」
と返したくれた。
その言葉を聞いて、安心する。腰がぬけてしまいそうだった。
「とくに、このスープが美味しいです。はじめて食べたはずなのに、なぜだか懐かしくて……」
王はポトフを気に入ってくれたようだ。
ポトフを美味しそうに食べる様子が、とても言いにくいが……
“本当に可愛かった”
食事が終わり、宰相は自分の部屋に向かっていた。
(どうやら、アンリはうまくやってくれたらしい)
陛下と王妃様の仲を深めたいから、なにかイベントを起こしてくれというフワフワな依頼になってしまったが、計画以上の成果だった。あいつにはなにかお礼をしないとなと思い、弟は廊下を進む。
「計画どおり……」
思わず、一言つぶやいてしまうほど、彼は上機嫌だった。
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