婚約者に裏切られて、リストラされた私が、異世界に転移して聖女様に間違われて王様に溺愛される

第３５話 パレード

　彼女にとっては、なにが起きたのか分からなかった。いつの間にか、式は終わってしまい、カツラギは婚姻パレードのため、馬車に乗るところだった。

「カツラギさん、大丈夫ですか？」

　先に馬車に乗った王は手を差し伸べてくれた。

「ありがとうございます」

　そう言いつつも、さきほどの件があって、彼女は意識してしまう。彼の手をうまく取ることができないのだ。なんとか、馬車に乗り込むと、やっと彼の顔をみることができた。

「では、行きましょうか」

「はい」

　顔が赤くなる。

（キスは２回目のはずだ。お祭りの時、村長さんに強制された時と、今回の式。いや、最初のは、頬にチュウくらいだったから、ノーカンかな？　もうわけがわからない）

　馬車を民衆が取り囲む。みんな拍手やおめでとうと祝福してくれている。万歳三唱、新王妃様万歳という大声が聞こえてくる。本当になにがなんだかわからない。そして、彼女にとって一番困るのは、彼が普通通りであること。

「ほら、カツラギさんも、みんなに手を振ってあげてください」

　とか

「みんな喜んでますね」

　とか……

「（なんで、あんなことをしてきたのに、そんなに平常心でいられるんだよ）」

　彼女はこころの中で、恨み節をいいながら、みんなに笑顔を振る舞う。もう、考えるのも、馬鹿らしくなってきた。今日はとにかく楽しもう。そう、決心した。

　馬車は城下町を一周した。みんなに喜んでもらえた。途中、途中で馬車を降りて、住民のひとと触れ合う。王も大人気だった。みんなに綺麗とかお世辞を言ってもらえたカツラギもまんざらではなかった。小さな女の子から、花束をもらえた時は少しだけ目がウルウルしてしまった。

　そして、パレードが終わると盛大なパーティーが催された。外国の代表者たちが、ふたりに祝辞を述べて、それに返答する。それの繰り返しだったが、カツラギはとても緊張した。忙しくて、食事もほとんど食べることができなかった。すべて、つつがなく終わると、もう夜になっていた。

　残ったのは３人だけだった。カツラギと王と宰相。本当に身内だけ。

「今日はお疲れ様でした、おふたりさま」

「ありがとうございます」

「うん」

　緊張してあまり食事もできなかったふたりのため、宰相が軽食を用意しておいてくれた。卵と野菜のサンドイッチ。卵の優しい味と、野菜のうまみが濃縮されていた。生き返る。

「さて、ではそろそろ邪魔者は消えますね」

「「えっ」」

「だって、結婚してはじめての夜ですよ。ちゃんと、寝室もおふたりが眠れる部屋を用意しておきましたから、安心してください」

「「はああああああ」」

　今日、最後の爆弾が投下された。