第28話 信頼
アレクの容態は落ち着いて、城の医務室に移動できるまでになった。
カツラギは、経口補水液を多めに作って、アレクに飲ませるように医務室の担当者に頼んだ。
素人なので、これ以上のことはできない。あとは回復魔法と脱水防止の水分補給で元気になってもらうしかない。
「少し疲れたわね、アンリ。でも、ありがとう。アンリのおかげでうまくいったわ」
「カツラギ様…… あなたは本当に凄いです。アレク様のような症状が起きたら、私たちは諦めなくてはいけないと思っていたんです。でも、カツラギ様はそれを覆してしまった。中庭の野菜もですが、あなたは世界のすべてを変えてしまうかもしれない。本当に凄いかたなのですね」
「おおげさよ。野菜と熱中症の対処くらいで」
「いや、私もアンリと同じ意見です」
後ろから王と宰相があらわれた。
「王様」
「陛下」
「カツラギ様が今日、披露した知識だけで、この世界の常識はひっくり返りました。あの野菜の生産力は、世界の飢餓を救えるかもしれません。魔法が使える者がいない寒村でも、野菜がたくさん作れれば貧困はかなり解消されます。また、アレクの症状はこの世界では"熱の病"と呼ばれていたもので、対処法はわかっていませんでした。この病で、兵士や農民が何人も亡くなっています。でも、この応急処置方法が伝われば、救われる命はたくさんあります。あなたは、この世界には存在しない知識をたくさん持っていると思います。それは、それは、この世界の根幹すら、簡単に変えてしまうほどの恐ろしいものなのです」
「だから、私はあの村で襲われたんですかね」
「おそらくそうですね。この国に伝説の女神が降臨したというのは世界中に伝わっています。あなたの存在は、この世界のパワーバランスをゆがめてしまうかもしれない。さらに、あなたは私と婚約した。つまり、王権とも深い関係を持ったことで、あなたは狙われる存在になったと考えていいでしょう。最近、師匠が王都に頻繁に戻ってくるのも、あなたと私を心配しているからです。師匠が王都にいれば、そう簡単には、手を出すことができませんし」
「みんな、私を助けようとしてくれているんですね。私は、足手まといなんじゃないんですか」
「いいえ、それは違います。今回の件で、あなたがまさに伝説の女神様なんだと確信を持てました。あなたはこの世界を救ってくれる救世主なんです。だから、あなたはここにいてくれないと困るのです。どうか、そんなことは言わないでください」
「私にはそんなことを言ってもらえる資格なんて、ないのに」
カツラギは誰にも聞こえないようにそうつぶやいた。
「えっ?」
「なんでもないです。王様、女神の伝説のことを教えていただけませんか? 私がどんなイメージなのか、知っておきたいです」
「わかりました」
王は口を開いた。
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