第27話 暑
「なんだって、本当にあなたならアレクを救えるのですか?」
「大臣、落ち着いてください」
「絶対とは言えませんが、実は私のいた世界で、同じような症状の方の応急処置を専門家にお聞きしたことがあるのです。だから、同じように処置をすればあるいは……。こちらには、”熱中症”という病気のことは知られていますか? 暑い日に体がそれに耐えきれずに倒れてしまう症状で」
「たしかに、暑い日にひとが倒れることが多いとは言います。しかし、それは病気なのですか? なるべく、外を歩くのを避けるべきとしか医学書には書いてありません」
「わかりました。私の世界の知識で、頑張ってみます(なるほど、医学に関しては江戸時代くらいの知識なのね)」
カツラギは取引先の相手が、倒れた際、救急車が到着する間、応急処置を施したことがあった。その時の経験から、熱中症に対してインターネットで調べたことがある。
熱中症によって古代ギリシアの偉大なる哲学者のタレスが亡くなったという説があること。
古代中国でも猛威を振るい、漢時代の歴史書にも記述があること。
江戸時代の医学書『養生訓』には、熱中症には気をつけなくてはいけないから、なるべく暑い日に外を歩かないようにするべしと書かれていること。
(まさか、こんなところでその知識が役立つとは思わなかった)
「よろしくお願い致します。カツラギ様。どうか息子を、助けてください」
「頑張ります。みなさん、手を貸していただけますか?」
「もちろんです」
カツラギは深呼吸をして、うなづいた。
「それではみなさん、アレクさんを涼しい場所に移したいので、あそこの木陰に移動させるのを手伝ってください。風魔法や氷魔法を使える方はいらっしゃいますか」
そう言ってその場の全員でアレクの体を移動させる。王が氷魔法の使い手ということを思いだし、カツラギは彼に協力を依頼した。
「カツラギ様、言われたものをお持ちしました」
「ありがとう、アンリ」
アンリが持って来たものは、バケツに入った水とたくさんのタオル、飲み水と砂糖と塩だった。
「王様、こちらのバケツの水に氷を作っていれてください」
「わかりました」
「兵士の方々は、アレクさんの鎧や服をなるべく脱がせて、薄着にしてください。そうしないと応急処置ができませんから」
「はい」
みんながスムーズに対処していく。
「服を脱がし終わったら、このヒシャクを使って氷水を体にかけてあげてください。それが終わったら、氷水につけて冷やした布を、首脇、脇の下、ふとももあたりにつけてあげてください」
「は、はい」
しばらく処置をすると、アレクの苦しそうな息遣いはおさまってきた。
「アレクさん、大丈夫ですか?」
カツラギが声をかける。
「はい、なんとか」
先ほどよりもしっかりと彼は答えた。
「吐き気とかはありませんか」
「いまは、大丈夫です」
「よかった。すぐに飲み物を持ってきますね」
カツラギは、アンリに持ってきてもらった水と砂糖と塩をかつて教えられた分量の通り混ぜ合わせた。
「これで経口補水液になっていると思うんだけど」
緊急事態だからか、少し前の電話の内容を克明に思いだせた。少し田舎の工場だったから、救急車が来るまでに時間がかかった。
カツラギは通報者として、オペレーターの人の指示で、応急処置を施して相手の人を助けた記憶が、またここでも役立つとは思わなかった。
「アレクさん、これは薬のようなもので、味はあんまり美味しくないかもしれませんが、効果はあるはずです。もし、吐き気があったりしたら、すぐに飲むことをやめてくださいね」
「わかりました」
そう言って、アレクに先ほど作った経口補水液を渡すと、彼はそれを飲み切ってしまった。
「とても気が楽になります」
アレクはそう言って笑った。
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