第26話 アレク

「これはすごいですね」

 カツラギが後ろを振り返ると、王と宰相がいた。


「こんな立派な野菜が、わずか数日でできるなんて、やっぱりカツラギ様は伝説の女神様なんですね」

 宰相は朗らかにそう言った。


「どれ私たちも一ついただくとするか」

「そうですね」

 王と宰相はそういってトマトを口に含んだ。


「陛下、まだ毒味が済んでおりません」

「大蔵大臣、そんなにかっかするな。使用人たちも食べたのだから大丈夫に決まっている」

「しかし、規則ですし。もし、この中に敵国のスパイでもいたら」

「我が国は善隣外交をこころがけているだろ」

「もしものことを言っているのです」

「うまい、うまい」


「「「大変だあああ」」」

 兵士の大きな声が響いた。


「どうした?」

 王と宰相は急に顔つきが厳しくなった。


「陛下。失礼します。アレクが急に倒れて。"変な汗"をかいていて、"けいれん"を起こしているのです。意識は辛うじてあるのですが、めまいがひどいようで、倒れて動けないのです」

「なんだと、回復魔法はどうしている?」

「かけつづけているのですが、一向に良くなりません」

「わかった、なら私も行こう」


「アレクがっ! どこにいる早く案内してくれ」

 大蔵大臣は、青ざめた表情で現場に向かっていく。


「アレクは、大臣のひとり息子なんです」

「そう、なんですか……」

 宰相は、しずかにそう教えてくれた。


「私も行きます。アンリ、悪いけど食堂から持ってきて欲しいものがあるの」

 アンリに用件を伝えるとカツラギは王たちの後を追った。


 ※


「うう」

 門の前で若い男は苦しんでいた。外は日差しが強く差しこんでいた。


「ダメです、回復魔法がまるで効果していません」

「くそ、どうしてだ」

「アレク、アレク。頑張るんじゃ、儂をひとりにしないでくれ」

 

「体に、力が入らない」

 意識はあるが、このまま放置していると危険な状況に見える。


「めまい、体のけいれん、変な汗」

 カツラギは、このような症状を身近で見たことがあった。


「だめだ、このままでは危ない」

 兵たちはパニックになっていた。


 カツラギは王に向かって一つの提案をする。


「王様、もしかしたら、私の知識で彼を助けることができるかもしれません」

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