第25話 肥料と魔法

 カツラギがキュウリとトマトを植えて数日後……


「カツラギ様、大変です!!!!」

 アンリは、慌てて彼女の部屋に飛び込んできた。

「どうしたのよ、アンリ?」

「カツラギ様が植えた野菜が、中庭が、大変なことに――」

「わかったから、アンリ。落ち着いて。とりあえず、中庭に行けばいいのかしら?」

「はい、お願いします。急いできてください」

 ふたりは、中庭に向かった。


 ※


「なによ、これ……」

 カツラギは、中庭の状況に驚く。そこには、植えたはずの苗があったはずなのに……


 キュウリとトマトが、生い茂っていた。


「うそでしょ。まだ、植えて数日だし。こっちの世界の野菜って、こんなに早く栽培できるものなの?」

「いいえ、どんなに早くても1カ月は収穫までに時間がかかります。こんなの異常です」

「アンリ。昨日の様子はどうだったのよ? 私は、王様との用事で水遣りができなかったからお願いしたわよね」

「はい、たしかにすくすく成長していて、さすがは女神様の魔法の灰だとみんなで喜んでいたんですが…… 夜の間に、さらに育ってしまって、いつの間にか実っていました。それにこの色といい数といい異常です」

「私の世界よりも野菜の収穫に必要な日数が少ないのね。それでも数日で収穫は異常ね」

「はい、一応この作物は、神官様に白魔法をかけていただいているので、成長が早いんですが」

「なるほど、わかったわ」

「わかったんですか!?」

「何度か実験してみないと、確かなことは言えないんだけど、きっと私たちの肥料と神官様の白魔法の相乗効果が出たんでしょうね。日ごろから魔法を浴びている土は、もしかすると私の世界の土とは微生物の力が違うのかもしれないし」

「微生物? 微生物って何ですか」

「ああ、土の中に住む、すごい小さい生物のことよ。彼らの働きによって、野菜の成長が違ってくるのよ」

「そうなんですか。さすがは、異世界の女神様ですね。すごいです、カツラギ様」

 アンリはそう言って、カツラギに抱きついてくる。この娘がこれほど興奮するところははじめて見たとカツラギは驚いた。そして、この世界が、完全に科学とは切り離されていることに改めて気がつく。


「とりあえず、試食してみましょうか、アンリ?」

「はい、食堂に行って洗ってきますね」

 

 ※


 カツラギとアンリたち使用人は、食堂に集まって、生のキュウリとトマトを試食することにした。


 水洗いしただけの野菜をみんなが口に運ぶ。


「すごいみずみずしいキュウリですね。こんなの食べたことがないわ」

「トマトも甘い。まるでフルーツみたいだ」

「それに数日であの量が収穫できるなんて。やっぱり、女神様は本物なんだ」

 使用人たちは興奮のあまり、素直な感情を吐露した。


「すごいです。あの魔法の灰と油の組み合わせは。さすがはプルウィア様ですね。カツラギ様は本当に凄いです」

「ありがとう、アンリ。あなたのおかげよ」

「どうしてですか?私は、土を耕したり水遣りくらいしかやっていませんよ」

「それが一番大事なのよ。陰で汗を流してくれたから、こうして収穫できたのよ。感謝しても、感謝しきれないわ」

「カツラギ様……」

「それにまだ、この野菜たちは改良の余地があるわ」

「えっ!?」

「本当なら、野菜はある程度大きくなったら、成長が遅いものを間引かなくちゃいけないのよ。そうしないと、元気に成長している野菜の品質を落としやすいの。今回は想定外のスピードで成長しちゃったからできなかったのよ。それに腐葉土も上手く作れたらそちらも使いたいし。まだまだ改良の余地があるわ。一緒に頑張ってくれるわよね、アンリ?」

「もちろんです、一緒に頑張りましょうね、カツラギ様」


(自分が必要とされるのって、こんなに嬉しいんだ)

 カツラギは当たり前のことを思いだした。

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