第24話 肥料

 翌朝。

「カツラギ様、準備ができました」

「ありがとう、アンリ」

「でも、どうするんですか? 本当にただの……」

「大丈夫よ、私に考えがあるの」

 カツラギはアンリ達使用人の掃除中にでるであろうものを中庭に集めておくように依頼していた。


 アンリは、本当に大丈夫なのかという顔をしている。

 それもそのはずだ。

 この世界の住民には、それらは単なるごみなのだから。


「カツラギ様、こちらです」

 中庭には、2つの塊の山ができていた。


 ひとつは、落ち葉だ。王宮の敷地は、膨大であり、毎朝の掃除の後にたくさんの落ち葉が集まる。

 それを中庭に集めてもらっていた。


 そして、もう片方の塊は、掃除中に出た雑草の残骸や落ち葉を焼いた灰である。


「じゃあ、アンリ。この灰を畑にまいておいてくれるかな」

「えっ、畑に灰をまくんですか?」

「そう。草木灰といって、私の世界では、土に栄養を与えてくれる魔法の灰なのよ」

「そこらへんの雑草で作った灰がですか?」

「いいから、いいから。私はアンリの作業中にもうひとつの魔法の土を作るわ。ヨーグルトって用意できたかしら」

「はい、朝食に余ったものを、食堂から分けてもらっています」

「ありがとう」


 カツラギは、キャベツの漬物用につくられた大きな容器に、落ち葉と土を詰めこむ。

 こちらも古くなって使われなくなっていたものをもらったものだ。


 そして、そこにヨーグルトを投入した。

 本来ならば、「米ぬか」がベストだとアイドルグループが無人島を開拓する番組でやっていたと思ったが、アグリ国ではコメは貴重品らしく彼女はそれを断念した。


 手軽な乳酸菌が、ヨーグルトしかなかったので試しに投入して水を振りかける。


 あとは、蓋をして数か月寝かせると、発酵して「腐葉土」になる。

 草木灰と並んでかなり原始的な肥料だ。


 ただし、これには時間がかかるため、しばらくは草木灰が中心になる。草木灰は即効性が高く、害虫除けにもなるのでとても便利なのだ。ただし、草木灰だけで、土を作ることは滅多になく、カツラギはもうひとつの材料を用意していた。


「アンリ、ありがとう。最後にこれを土に混ぜれば完成よ」

 カツラギの手には、ツバキ油を作る際にでた油粕の袋が握られていた。


 ツバキ油は、日本でも古来より使われていた油で、食用・化粧品用・薬用・塗料などの工業用といったあらゆる分野で使われている。


「ツバキ油がこの世界でも、食用油や上流貴族たちの化粧品として使われていたから助かったわ」

 カツラギは、そう言って油粕を土に混ぜる。この2つの肥料によって、土は最高のコンディションになる。


 午前中は土づくりに勤しみ、その後は野菜の苗を植える。

 カツラギはとりあえず、キュウリとトマトを植えた。


「元の世界なら2か月くらいで食べごろになるはずね~」

 彼女は久しぶりに満足した。

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