第23話 畑

「ここが畑ね」

「はい、あれがハーブで、そちらには芋が育っていますね」

「すごいわね。管理は誰がやっているの?」

「はい、メイドや使用人が当番で管理してますよ」

「じゃあ、アンリも?」

「私もたまにですが」

「ちなみになんだけど、アンリ?」

「なにか嫌な予感がします」

「そう言わないで。少しだけ、ここの畑を私にも貸してほしいの」

「しかし、それは上の者の許可が必要ですし――そもそもカツラギ様は、王妃様になるのですから、こんな畑仕事をすること自体、スキャンダルというか」

「いいじゃない。アンリには迷惑をかけないように、私から直接王様に許可をもらうから、お願い。用意してほしいものがあるの?」

「……」

 アンリはため息とともに、無言の許可を出した。


 その夜。

 カツラギは、王と宰相に畑の使用許可を求めた。

「えっ、畑ですか!?」

「兄さん、驚きすぎだよ」

「いや、しかし」

「幼いときに、向こうの世界で祖父母の畑を手伝った事があって……とても懐かしい思い出なので、ぜひともやってみたいのです」

「しかし、大蔵大臣などがなんというか」

「ああ、あの大臣は保守的だから、腰を抜かすかもね」

「笑い事ではない」

「だめですか?」

 カツラギは、少し落ち込んだ声になる。


「いや、ダメではない。カツラギ様が持っている異世界の知識がなにか役にたつかもしれないし。今回は特別に許可を出そう」

「兄さんも甘いな」

「何か言ったか、宰相?」

「いえ、陛下。なにも言っておりません」

「ありがとうございます」

 カツラギはそのふたりの微笑ましい姿を見て、心が安らいだ。


 翌日。


「よっこいしょ」

 カツラギとアンリは、ふたりで畑を耕していた。

 アンリはさすがに主人ひとりに作業を任せるわけにはいかないと、遠慮するカツラギを押し切って作業してくれている。


「少し休憩しましょう」

 アンリはそう言って用意してくれていた水筒の水を未来の王妃に手渡した。

「ありがとう」

 冷たい水が細胞にいきわたる。


「次は、肥料ね、アンリ?」

「?」

「あれ、どうしたの? 不思議そうな顔をして」

「申し訳ございません。知らない単語だったので」

「あれ、こっちでは"肥料"を"肥料"と呼ばないのかしら」

「どういうものですか?」

「土に栄養を与えるものよ。肥料をあげれば、収穫量が増えるの」

「土に栄養?」

 アンリは頭に?マークをたくさんつけた。


「ちなみに、アンリ? この世界で野菜はどう作るの?」

「種を植えて、水をあげます。たまに、魔法が使える方に来ていただいて回復魔法をかけて野菜を励ますんです」

「なるほど」

 魔法が肥料の代わりになっているのか。


「でも、近くに魔法使いがいないひとはどうするの?」

「遠くから呼び寄せているようですよ。ただ、その場合だと手間賃がかかりすぎるとか」

「なら、作ってみようかしら」

 カツラギはそう言って笑った。

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