第19話 宰相の策略
「長旅お疲れ様でした」
カツラギと宰相は長い廊下を歩いている。そこは赤じゅうたんが敷いてあって、シックなお城の廊下だ。
「ありがとうございます」
「楽しかったですか?」
「いろいろありましたが、とても楽しかったです。村長さんに圧倒されました」
彼女は本音を話す。
「でしょう。あの人が伝説の英雄と言われても絶対に信じられません」
宰相は笑顔でそう答えた。この人はいつもキリっとしているが、笑顔だけは年相応の顔になる。
「ハハハハ」
彼女たちはひとつの部屋の前に止まった。
「こちらがカツラギ様のお部屋です」
そう言い彼は扉を開ける。
「うわあ」
中にはお姫様の部屋のような世界が広がっていた。小さいころ夢見た世界だ。大きな鏡、可愛い調度品、天井があるベッド……。ん、ベッド?
いや、部屋にベッドがあるのは普通のことだろう。それはいい。問題は……
「あのベッド少し大きすぎませんか?」
明らかに一人用ではない。キングサイズといっても、余裕で3、4人は眠れそうだ。
「ああ、それはそうですよ。だって……」
「だって?」
嫌な予感がする。
「陛下が一緒に寝るようになるじゃないですか」
それは的中した。この世界の人は、セクハラという概念がないのか。村長さんもセクハラ爺と言われていたし。あっ、セクハラっていう概念あるじゃん。などという下手なツッコミを入れつつ彼女は大声で叫ぶ。
「いやいやいや、それはまだ早すぎますよ」
「だって、結婚することになったんですよね」
宰相は悪戯好きな笑顔でそう言った。あっ、この人確信犯だ。彼女はそう直感した。
「契約結婚ってあなたが言いだしたんでしょ。あくまで、契約ですよ。け・い・や・く」
「頑なですね。そういうところ、兄とそっくりです」
「せめて、ベッドは2つにしてください。そうしないと、恥ずか死んじゃいます」
「恥ずか死ぬ?」
「いいから、わかりましたね。宰相さん!」
「はい、わかりました」
彼は笑顔でそう応じた。
(このひと、絶対にわたしをからかっているよ)
「ふう~」
カツラギはツッコミ疲れて、ため息をつく。
「ありがとうございます」
宰相は急にまじめな口調になった。
「なにがですか?」
「兄のことを受け入れてくださってです」
「ああ」
「兄は本当に不器用なひとなんです。村長さんから聞いていますよね? 義理の弟のために、すべてを投げ出すつもりですし」
「ええ。でも、そこがお兄さんのよいところなんでしょ」
「はい、大好きな自慢の兄です。だから、兄のこと、よろしくお願いします」
「はい、任されました」
彼女はそう断言した。だが、二人を騙しているような気がして、どうしても負い目を感じてしまう。
「では、わたしは仕事があるので、これで。あっ、そうそうカツラギ様」
「なんですか?」
「ベッドにふたりで寝るのは“まだ”早いんですよね。それは将来的にあり得ると考えていいんですか?」
「……」
彼女は顔が真っ赤になるのを感じた。とても体が熱かった。
「野暮なこと聞いてしまいましたね。それではごゆっくり」
年下の男の子にいいようにからかわれてしまった……。カツラギはそう思いながら、外を見る。窓から見える夕日はとても綺麗だった。
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