第17話 けいやく
彼女は最初はなにを言われているのかわからなかった。太陽はサンサンと二人を照りつけて、まだ少し寒い春の風が包んでくる。
「急にこのようなことを言ってしまい申し訳ありません。でも、わたしは本気です」
「その……」
「昨日のことがあって、色々と考えました。たぶん、あの男はまたあなたを襲いに来るでしょう。そんな時、わたしにはあなたを守る責任があります。この世界にあなたを呼んでしまったわたしに」
「つまり、それは……」
「はい、弟が言っていたようなことだと考えてください。周囲には事実を知らせず、3人だけの秘密です」
「契約結婚ですか……」
「対外的には夫婦なので、そう振る舞ってもらう必要があります。ただ、夫婦とはいえ、契約夫婦です。夫婦生活は……」
「わかっています。王様は子供をつくるわけにはいかないですものね、村長さんから詳細は聞いていますので」
「……ハイ……」
「わたしは空から落ちて来た女神として振る舞い王国の評判を高める。そして、王様はわたしを危険から守ってくれる契約……」
「わたし以外にあなたを守れるひとはいないと思います。責任をはたさせてください」
王は深刻な顔でそう言った。顔面は蒼白だった。
「フフフ」
わたしはおかしくなって笑ってしまった。
「どうしましたか、カツラギさん?」
「いえ、すいません。なんだかおかしくなってしまって……」
どう考えても最悪のプロポーズだ。ロマンもへったくれもあったもんじゃない。ロケーションは最高なのに……。王はなんでもできるのに、変なところが不器用だ。
「すいません、変なこと言いましたよね。忘れてください」
王は慌てて、取り繕った。顔はいつの間にか真っ赤になっていた。
「本当ですよ。せめて、プロポーズは建前でもかっこつけて欲しかったです。わたしの人生初プロポーズなんですから」
彼女は王に少し意地悪をしてみたかった。わたしのことを考えて寝不足になってしまったこの不器用な王様に。
「本当に申し訳ございません。こういうことになれていないもので」
「誰でも慣れていないと思いますよ。プロポーズなんて、毎日はしませんからね」
そして、ふたりで笑いだした。なんだか、可笑しくなってしまったのだ。
笑いがおさまると、カツラギはまじめな顔になる。
「陛下、さきほどのプロポーズありがとうございました」
あえて、かしこまった言い方をする。大事なことだ。少しはかしこまりたい。
「とても嬉しかったです。ふつつかものですが、末永くよろしくお願いします」
彼女は、王の好意に甘えることにする。だが、罪悪感はぬぐえなかった。
王に一つだけ秘密にしていることがあるから。
それは、彼女がこの世界にトリガーになった出来事だ。
婚約者が前の世界にはいて、私は彼に裏切られてすべてを失ったという事実が彼女を苦しめることになる。
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