第15話 プロポーズ

 馬車は王都へと向かっている。ふたりとも昨日は結局ほとんど眠れなかった。王もカツラギも少しウトウトしている。祭りが終わって、すぐに王都へ出戻りという弾丸スケジュール。


 ふたりは旅の疲れからか、話もほとんどないまま1時間ほど馬車にゆられていた。

「そういえば、カツラギさんは王都もはじめてでしたね?」

 王は沈黙に耐えられなかったのか、カツラギに話しかけてきた。

「そうですね。目がさめてから、すぐにイースト村に来てしまったので、まだ行ったことはないです」

「王都はあの村とは違って、かなりにぎやかですから、きっとビックリしますよ」

「それは楽しみです」

「……」

「……」

 すぐにふたりの会話はなくなってしまった。少し気まずい。


「カツラギさん、少し寄り道してもいいですか?」

 ふたりでウトウトしていたときに、王は眠たそうな声でそういってきた。

「はい、いいですよ」

 彼女もそう返す。

「天気もいいので、ここで帰ってしまうと少しもったいない気分なんです。たまには、仕事をさぼって、観光したいなと思いまして。それに隣にこんなかわいい人がいてくれるのなら、最高の気分です」

「また、そんなことを言って……」

「本気なんですけどね」

 王は少し恥ずかしそうに、そう言った。その様子がとても可愛かった。


「ハーゼの湖に寄ってくれ」

 王は従者にそう指示した。とてもきれいな湖なんですよ、と彼は説明してくれた。

「着くまでに、あと1時間はかかるので、それまでは寝ていましょうか。わたしも少し寝不足気味で」

「そうですね」

 彼女がそう答える前に、王は眠りの世界に旅立ってしまった。カツラギも即座にその世界に同行した。


「カツラギさん、着きましたよ。さあ、行きましょう」

 王がカツラギを起こした。馬車の窓からは、とても大きな湖をみることができた。周りは森に囲まれている。自然豊かな場所だった。


「こういう大自然をみていると心が落ち着きますね」

「ええ、わたしも大好きなんです。30分ばかり、散歩しませんか」

「はい、ぜひとも」


 ふたりで湖を散歩する。とても水が美しかった。陽の光が反射して、ピカピカと光っている。

「綺麗な湖ですね」

「はい、この水がこの国の農業を支えているんです。貴重な水源です」

「そうなんですか。でも、王様が寄り道したいなんてビックリしました」

「ハハハ。すいません。最近、忙しかったので、少し気分転換がしたかったんです」

「大事ですよね。気分転換」

「この自然を見ていると、重荷を降ろせそうでとても安らぐのです」

「……」

 彼女は彼が背負っている責任の重さを感じる。彼は手で水をすくいながら、女の方をじっとみてきた。


「カツラギさんは、向こうの世界で恋人はいなかったのですか?」

 王は突然、切り込んできた。

「と、とつぜん、どうしたんですか?」

 カツラギは驚いて咳きこむ。

「すいません、失礼な質問でしたか?」

 彼の眼はとても誠実な色をしていた。


「いえ、ビックリしただけで。いないですよ。少なくともこちらに転移した時はいませんでした……」

 女は少しだけウソをついた。

「なら、よかった」

 王は少し安心した顔になる。

「えっ?」


「カツラギさん」

「はい?」





「わたしと結婚してください」

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