第13話 愛

 フードの男はもうそこにはいなかった……燃え尽きたのか、それとも逃亡したのかはわからない。

「倒したんですか?」

 カツラギはおそるおそる村長に聞いた。

「わからんがたぶん、逃げられたな。ふぅいー」

 大きなため息をついて、村長さんは座り込んだ。


「さすがに1日3発の奥義は体にこたえるわい。大丈夫だったかい、マイスイートハニー」

 村長はさっきの真面目な雰囲気から、いつもの感じに戻ってしまった。その声を聞いて、カツラギは<助かった>ことを実感した。安心して、彼女も座り込む。生きていてよかった。それが一番の感想だった。この世界に転移することになったあの時以来、カツラギはずっと生きたいと強く思っていたことに気がつく。


 日本の最後の記憶が絶望だったのに――どうしてだろうか?

 彼女はまだ気がついていなかった。この世界にいることが、もはや日常に置き換わっていることに……


「あっ、王様は?」

「やつなら、大丈夫じゃろう。わしの弟子ならあれくらいで死ぬような鍛え方はしておらんよ。早く起きろ、馬鹿者」

「起きていますよ。大丈夫ですか、カツラギさん」

「ハイ、おかげさまで」

「よかった」

 王は力なく笑顔を作っていた。カツラギを自分一人で守れなかったことを悔しがっていた。


「まったく、わしがいなかったらどうなっていたことか」

「面目ありません」

「だいたい、お前は優しすぎる。はじめからやつを倒すつもりで戦っておけば、あんな無様な姿にもならんかっただろうに」

「……」

「わしに決闘で勝ったからって、調子にのりすぎじゃ。あれはあくまで、競技。今回のような殺し合いでは、そう簡単にはいかんからな」

「はい」

「さて、お説教はこれくらいにして、せっかくの祭じゃ。楽しもう。もう、やつも襲ってきまい。わしがメタメタにやっつけたからな」


 三人で村に戻っているとき、王は小声でカツラギにつぶやきかけてきた。

「お見苦しいところをお見せしました」

「いえ、そんなことありません。助けていただきありがとうございました」

「師匠の言っていた通り、わたしはまだまだ未熟です。あなたを助けようと意気込んでも、あんな情けない姿をさらしていました」

「でも、本当に王様のおかげですよ」

「あなたを守ると言っておきながら、本当に情けないです」

「そんな」

「一生後悔するところでした。あなたをこんなところで失うわけにはいかないのに」

「それは、私が聖女だからですか?」

「えっ?」

「ごめんなさい。なんでもないです」

 彼を試すようなことを言ってしまったとカツラギは後悔する。こんなところに予防線を張ってしまう自分が情けなかった。

 

 王は落ち込んでいた。こんなすごい人でも、人間なんだなと思う瞬間。カツラギは自分の中から出てくる感情に驚く。


「そんなに落ち込まないでください。わたしなんかを助けてくれようとしてくれたとき、本当にうれしかったですよ」

 そんな様子をみて、彼女はドキドキしていた。王は、とても勇敢で、かっこよくて、そして……


とても愛おしかった……

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