第12話 ふーどのおとこ

 月は輝いていた。月光は池に反射し、ふたりをあたたかく包んでいる。


「申し訳ないが、そこまでだよ。おふたりさん」

 まがまがしい声が後ろから響いてきた。決闘中に聞いたあの禍々しい声だった。


「あなたは誰?」

 カツラギはおそるおそる後ろを向く。そこには、フードをかぶった小柄な男がいた。

知る必要がないことだよNeed not to know.

 とても流ちょうな英語だった。王や村長が話していた和製英語みたいな発音とも違う。


「悪いが、あなたにはここで消えてもらう」

 フードの男はそう無感動な言葉を放つ。

「どうして?」

「それがこの世界の流れだから」

 意味が分からない答えだった。


(どうして? 日本でも必要ではないと拒絶され、異世界に突然呼び出され、見知らぬ男に命を狙われて、死んでしまう。そんなのはいやだ。どうしてそんなことになってしまうの)

 カツラギは心の中で叫ぶ。


「いや」

 彼女の言葉に王は反応した。

 彼のあたたかいぬくもりが、カツラギの手に伝わってくる。お互いの手は固く結ばれていた。


「あなたをここで失うわけにはいかない」

 王は彼女に小声でそう言う。


「この痴れ者め。彼女がアグリ国王であるわたしの婚約者と知っての言葉か?」

「……」

「いまなら見逃してやるぞ」

「それはできない」


 男の返答に、王は魔術で返した。さきほども放たれた無数の凍てつく氷の矢が男を襲う。


「ふん、たわいもない」

 男は手を前に振りかざすと、彼の前に暗闇が出現した。矢はすべてその暗闇に包まれて、消えた。


「うそ」

 カツラギは絶望に染まる。村長を打ち破った魔法がまるで赤子の手をひねるように崩された。

「王の力とはそんなもんなのか?」

 男が指を動かすと、すさまじい衝撃波が発生し王に襲いかかる。王は魔法で作り出した氷の壁でそれを防ごうとするも、壁は簡単に崩れ去った。王の体が宙を舞う。勢いよく地面に吹き飛ばされた。


「さて、続きをしようか。カツラギさん」

 フードの男は少しずつ近づいてくる。彼女は恐怖と絶望にうちひしがれる。体が動かない。

「大丈夫かい、マイハニー」

 聞きなれた声が聞こえた。カツラギの後ろには村長がいた。


「わしのガールフレンドと弟子に危害を加えようとするとはいい度胸じゃの」

 村長の後ろにはいくつもの火の玉がうごめいていた。その火球の動きはさきほどの決闘のときよりも早かった。


「ちっ、やっかいな奴が」

 フードの男にいら立ちがみられた。


 男は技を放つよりも先に村長は動いていた。

「消えていなくなれ」

 不死鳥はフードの男に向かっていった。男は両手を使って、大きな闇を作り出す。間一髪で逃れたようだ。すごい音をたてて、闇と不死鳥はぶつかり合っている。


「誰が一発しか放てないと言ったんじゃ」

 村長は冷たく言い放つ。防御することで、精一杯の男に向かって、2匹目の不死鳥が出現した。2匹目の不死鳥は闇を突き破り、大爆発した。

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