第7話 決闘
「本当に申し訳ございません。うちの師匠がご迷惑をおかけしました」
王はさっきから平謝りだ。
「いいんですよ。王様の意外な一面もみられたし……」
「えっ?」
「なんでもありません。しっかし、すごいお師匠さんですね」
「恥ずかしながら」
「仲が良いのがこっちにまで伝わってきましたよ。でも、師弟でずいぶん性格違いますね」
「本当に自由奔放で。いつ、師匠が裁判で訴えられないかと気が気でありません」
「たしかに」
ふたりで談笑する。
ジジさんは、祭りの準備があるからと、村人の人たちに連れていかれた。
「あんなんでも、魔術師や指導者としては、本当に尊敬しているんです」
「そうなんですか!?」
女は大げさなくらいビックリしてしまった。
「あの自由奔放さから、既存の発想に縛られないすごさがあって。あの人が作り出したオリジナルの魔法が、今では教本に多く取り上げられていますし。芋の栽培方法など、最初に考え出したのも師匠なんです」
「すごいギャップですね。わたしの世界にも<暴走老人>という言葉がありますが、まさにピッタリなひとですね」
「本当に。黙っていれば、最高の師匠なんですが(笑)」
王は大げさにため息をつく。だが、所々から、師匠への敬意が感じられるしゃべり方だった。
「黙っていれば、言ってくれるのう。陛下」
「「うわ」」
いつの間にか、師匠は後ろにいた。
「わしのガールフレンドに手を出すとは、まったく師匠泣かせの弟子じゃわい」
「ほんとうにセクハラで訴えられますよ」
「大丈夫だ、裁判するのはわしじゃし~」
笑えない冗談だった。
「さて、我が弟子よ」
師匠は急にまじめな口調に変わった。
「久しぶりに決闘しようじゃないか。どれだけ強くなかったか、みせてみろ」
「お祭りの余興ですか?。いいですね、手加減しませんよ?」
「おうおう、言ってくれるの~。そうじゃ、なにか、賭けをしよう。勝者は女神様からキスしてもらうなんてどうじゃ?」
「「はあああああ」」
なにを考えてるんだこのセクハラ爺さん。カツラギは失礼ながら、そう思った。
「どうした。負けるのが怖いか?」
師匠はさらに煽ってくる。
「わかりました、やりましょう」
「えっ」
思わず声が出てしまう。王は煽り耐性が低かったようだ。
「<やめて、わたしのために争わないで>」
という状況にリアルに巻き込まれるとはカツラギは思っていなかった。
ていうか、わたしの意思はふたりとも無視ですか?
そう心の中で彼女は叫んだ。
――――――
前回までのあらすじ……。
契約婚約者と自称ボーイフレンド(268歳)が、わたしのことをめぐって決闘することになりました。やめて、わたしのために争わないで。
――――――
「あのう……。決闘ってどんなことをするんですか?」
カツラギは近くにいた赤い魔人に聞く。もしかして、殺し合い?
「ああ、カツラギ様ははじめてですね。いわゆる、スポーツみたいなものですよ。1度だけ、魔法無効化できる防具を付けて、先にダメージを与えた方が勝ちというものです」
「なるほど」
剣道の魔法バージョンだと思えばいいのかな?と内心で納得する。
「今年の祭の目玉にするんじゃと村長は大はしゃぎで準備してましたからね(笑)。自慢の弟子と遊べるのが楽しみなんですよ、きっと」
「自慢の弟子?」
「はい。村長は、王様のことを<最後にして、最高の弟子>と褒めまくっていますからね。わたしも何度も聞かされています」
「どちらが勝つと思いますか?」
「むずかしいところです。王様は現在、最強クラスの魔術師です。それに対して、村長は全盛期は歴代最強の大賢者と呼ばれていました。老いて、全盛期の力はもうないと本人は言っていますが、果たして?」
「燃えますね」
「はい」
魔人は飛び切りの笑顔でそう答えた。
王は、祭の開会式で祝辞を話している。
村長さんの開会宣言はとても短かった。
「いぇーい、みんな今日は楽しもうぜ。以上」
いいのか、村長。
カツラギは主賓席で、祝辞を聞いていた。村民たちのひそひそ声が聞こえてくる。
「あれが空から落ちてきた、女神様ね」
「すごく綺麗ね。ドレスもとても可愛いわ」
「王様と一緒に来てくれたってどういうことかしら……。ねぇ、もしかして、あのふたり……」
「もう、それ以上は野暮よ」
とても気恥ずかしい。契約婚約者でごめんなさい。カツラギは心の中で必死に謝った。
「それでは、みなさん、いよいよメインイベントをおこないましょう。会場のほうへどうぞ」
司会の魔人がそういった。
「やったー、楽しみ」
「王様のかっこいいところ早く見たいな~」
決闘会場は青い魔人が作っていた。円とその中に魔法陣が描かれていた。王と村長はそのなかに入る。
「今回の決闘は、わたくしが審判を務めさせていただきます。それでは、結界を張ります。みなさん、少し離れて下さい」
青い魔人がそう叫んだ。
「カツラギ様はどうぞこちらへ」
赤い魔人が案内してくれる。そこは特等席だ。
「日頃の恨みとストレスをぶつけにこい。バカ弟子よ」
「手加減しませんよ、エロ師匠」
「それでは試合開始」
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