第4話(幕間) プロローグ②&夢

 本当は彼が大好きだとわかっていた。

 最初に助けてもらったときから、たぶんそういう運命だったのだ。女はその運命からは逃げることなどできなかった。


 ただ、自分の本心にふたをしていただけ。

 気がついていたのに、気がつかないようなフリをしていただけだ。

 それは婚約者に裏切られたというトラウマがあったから。


 異世界に召還されてから、女は何度も悩んだ。なにもない平凡な自分が王様のような素敵な人の妻になっていいのだろうかと。あくまで形式的なのだからとか。ギブアンドテイクなどど、自分は彼の優しさに甘えていただけなのかもしれないという疑念。


 ただ、偶然、異世界に来てしまった。それだけのことで、王様を苦しめたり、重荷になってしまっていないのだろうか。もっと、単純な幸せが欲しい。それは贅沢な悩みだ。わかっている。それでも、女はそれを願ってしまうのだ。たぶん、これが人を好きになってしまう病なのだろう。


「大好きです」

 王様は寝ているとわかったうえで、そうつぶやく。本当にずるい女だ。彼に聞こえないとわかっている時だけしか、本心がだせない。


 そして、願うのだ。彼がわたしを好きになってください……と。


 ※


(私もですよ、カツラギさん)

 男は心の中でそう答えた。


 そのまま眠りにつく。


 ※


 また、夢をみた。男が小さいころから見ている夢だ。


 そのころ、王は両親を失い途方に暮れていた。なにを食べても美味しくなかったし、なにをしても楽しくなかった。


 夢の世界はとてもすごかった。

 そこには大きな音を立てる大きな馬車のようなものがあった。空を見上げたら、お城よりも高い建物があって、さらに上の空にすごい音を立てる金属の鳥がいた。


 男は泣いていた。でも、ひとりではなかった。知らない女の子が側にいて、大丈夫だよと励ましてくれていた。

「ありがとう」

 としゃべりかけると、いつものように夢は終わってしまう。


 はっきり見ていたはずの彼女の顔は、光に包まれて何もおぼえていない。ただ、夢とは思えない実際のぬくもりを王は感じていたのだった。

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