第50話 実力の差

だが──。


(大丈夫。これが真の狙いよ!)


その刹那。レテフがにやりと笑みを浮かべる。


「さあ、私の想い。受け取りなさい!」


レテフはそう叫び、足元に向かって、思いっきり弓矢を放つ。

魔法陣から魔力が吹き上がり、大爆発を起こす。よけることもできず、直撃するしかないローチェ。


「これで決まりよ」


「レテフ。やるねぇ~」


そしてローチェも両手の鉄扇を地面へ。そして思いっきり魔力をこめ──。


大きく大爆発を落とす。威力は両者互角といった所か、互いにもう一度後退。

2人の戦いは、再び振り出しのにらみ合いに逆戻りした。



「す、すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「2人とも、レベル高いなこれ」


「極東エリアのチャンピオンっていうから見に来たけど、やっぱり強いな」


会場は大盛り上がりとなる。そしてサナとリヒレもテンションが上がり、ほっと安心し始める。


「相手、強いから心配だったけど、レテフちゃん。いい勝負してるじゃん」


「そうよ。行けるんじゃないこれ」

前評判があり、格上とも言っていい相手に互角。2人の中に期待に胸を膨らませているのがわかる。


周囲も、この勝負はわからない。どっちも勝機がある互角の戦いという雰囲気が流れる。


そして、会場の中で俺だけが、険しい表情で2人をじっと見ていた。


……互角、か。


そして険しい表情をしている俺に気づき、サナが首をかしげて聞いてくる。


「何で、真剣な顔してるの? いい勝負だと思わない?」


「確かに互角だ。でもそれは遠距離戦での話だ……」


そう、俺が険しい表情でサナに言った最大の理由。

それは今の戦闘から見えてきた現実だ。

ローチェはあの武器や、何度も接近戦を挑もうとした動きからして接近戦が得意な魔法少女だと判断していい。


対してレテフは遠距離攻撃を得意とする。

つまり遠距離戦を制さなければ勝ち目はない。


ローチェに勝ちたかったら、今の勝負はいい勝負ではだめなのだ。8対2くらいで優勢でなければいけないんだ。


しかし今な控えめに見てもレテフはローチェの戦いは互角。今の戦い限定ではいい勝負だが、広い視野で見ると、今の戦闘で明確な実力の差が2人の間についてしまった。


「それにローチェは、まだ何かを隠している」


彼のどこか余裕のある表情。明らかに相手の様子を見ている。


考えてみれば奴は極東から来た魔法少女で、どんな戦術を使ってくるかここの相手には未知数。だから相手の強さを見極め、ギリギリのところで勝って手の内を隠すくらいはしてくるかもしれない。


だからこそ、ローチェはあえて無理に攻め込まず、レテフの得意なロングレンジでの戦いをしているのだろう。


でも、そろそろローチェはレテフの力を見極めてくるはず。そしたら勝負に出るはずだ。


「あっ、ローチェが前に出た!」


サナの言葉通りローチェが一気に間合いを詰めてくる。

レテフが再び距離を取ろうと後ろへジャンプした。その瞬間。


(かかった!)


両手を横に伸ばし、持っている扇子に魔力をこめる。するとローチェの肉体は光り始めた。


顕現なる力・新たに輝く聖霊となりて・栄光へのロードを導け

サンシャイン・フレア・ハート



「しまった」


レテフはその行動に思わず驚くが飛んでいる最中のためどうすることもできない。


「積み術式ってやつよ」


リヒレが深刻な表情で語る。


「限られた魔法少女だけが使える特殊な術式。使うことで自身の身体能力を強化することができるの。でも弱点としてその術式を使う間は無防備になってしまう。だからいかにして使わせないようにするかが肝なんだけど」


レテフは遠距離戦を得意とする。だからローチェが攻め込めば退いてくる。その間にどうしてもスキができてしまう、そしてそのスキを使う。それを読んでの行動だった。



(まずい、次からもっと強い攻撃が来る)


レテフがそう自身に強く言い聞かせ、集中を高めた瞬間。




目にもとまらぬ速さで振り下ろされた、鉄扇の姿をとらえた。


(嘘っ──、何今の)



よける暇すら与えなかった一撃は彼女の肉体を切り裂く。


「初めて試合が動いたぞ」


「速すぎる、すごい武器を持ってるなあの女」


ざわめきだす会場。



そして魔装状態であるため出血こそしないものの、その大ダメージと痛みが彼女を襲う。

数メートルほど肉体が吹き飛ぶ。痛みを必死にこらえ、何とか着地して視線を前に移すと、ローチェが一気にこっちに向かってくるのがわかる。


均衡が崩れた後、戦いの形勢はあっという間にローチェが優勢に傾く。レテフはひたすら守り、逃げ回る。


しかし積み術式を使ったローチェの足は速く、どうしても反応が遅れてしまう。ギリギリの回避や攻撃を浴びるたびに体にダメージが蓄積し、消耗してしまう。

気が付けば息も荒くなり、あと1撃も浴びれば倒れそうなくらい疲弊しきっていた。


「強いなあいつ」


「実力が違いすぎる。もういい見ててかわいそうだ」


周囲も実力の差を理解し、レテフに同情の言葉をかける。確かに、このまま戦いを続けても彼女が勝てるとは思えない。


実力差がありすぎる。サナもリヒレも絶望に染まった顔をし始める。


それでも──。


「レテフ。頑張れ! 戦え」


俺は精一杯の声で叫ぶ。ずっと戦ってきた俺だからわかる。実力差のある敵にボロボロになったときや、負けそうになった時というのは同情される方がつらい。


背中を押してくれた方が、よほど彼女のためになる。


「そうだよ、負けないで、頑張って!」


「レテフちゃん。勝ってアグナムと戦うんでしょ!」


サナとリヒレも全力で叫ぶ。レテフはそれに反応してこっちを向く。傷だらけでぼろぼろの中、ふっと微笑む。


そして視線をローチェに向ける。


「次で決めてあげるよ。もうボロボロだしね」


鉄扇で顔を仰ぎ、余裕の表情でローチェは言葉を返す。

それを見たレテフはただ彼に矢を向ける。そして──。

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