第51話 決着。その後

それを見たレテフはただ彼に矢を向ける。そして──。



 悠久なる聖矢よ、鉄血なる信念を纏い、その想いを昇華せよ

 エアレイド・ストーム・アクセルアロー



 レテフの術式。100本はあろう魔力を伴った大量の矢が彼女の周囲に出現。

 そして彼女が弓を弾き、矢を発射すると、周囲の矢も同時にローチェに向かっていく。


 ボロボロになったレテフの最後の意地。嵐のように大量の矢がローチェに向かっていく。

 それを見た彼はニヤリと笑みを浮かべ始め。


「今の術式は素晴らしかった、魔力も、その諦めない気持ちも」


 そして彼は両腕をクロスさせ──。


「けど、全然、僕に勝つには程遠いんだよねぇ」


 そのまま両手を広げ鉄扇を薙ぐ。


 その瞬間強い魔力が衝撃波のようにレテフに向かって襲い掛かる。レテフの放った矢は衝撃波が触れた瞬間消滅。


 そして──。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 強大な魔力が襲い掛かり、レテフのその場で作った障壁を一瞬で破壊する。


 そして彼女の願いを、一瞬で消し飛ばした。

 レテフの体はそのまま壁に衝突、魔力が切れ、意識が途絶えその場に倒れこむ。



 審判の無情な一言が会場一帯にこだまする。


「レテフ選手。意識消失。勝者ローチェ選手」



 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


 新たな強者の登場に会場は一気に湧き上がる。


「あいつ強ええじゃん。優勝まで行けるんじゃね!」


「次はあのアグナムだろ。面白そうだな!」



 ウィンクをして周囲にアイドルのように手を振ってアピールタイムに入る。

 俺に向かって投げキッス


 とんだ強敵と当たることになっちゃったな。



 そして俺たちは更衣室へ。


 そこには、木の椅子にちょこんと座りこんでいるレテフの姿があった。

 なんか気まずいな。どう声をかけよう。

 するとリヒレが隣に座り、優しく声をける。


「お疲れさま。よく頑張ったわね」


「ごめん。私負けちゃった。アグナムと、戦いたかったのに──」


 明らかにしょんぼりしているように見えた。とりあえず、励ます。


「けど、あんな強い相手によく頑張ったと思う。最後まで立ち向かう姿、かっこよかったよ!」


 その言葉に、レテフは顔を真っ赤にする。


「あ、ありがとう……」


 そして俺の胸に飛び込んでくる。今日くらいは許してやろう。俺はレテフの頭を優しく抱きしめて、両手で髪をほぐすようにそっとなでなでする。


「ごめんなさい。あなたと、戦いたかったのに……、ぐすっ」


 俺の胸で泣いている。ぽろぽろと涙が出ているのがわかる。


「試合見ていてけど、レテフが必死になって戦っているのは、よくわかった。だから安心して」


 優しい励ましの言葉、どこか拙いかもしれないけれど、俺にできる精一杯の言葉をかける。

 それでレテフの心がそれでいい。いつもはめちゃくちゃな所はあるけれど、今回は許してあげよう。



 数分ほどたつとレテフが泣き止み、胸から顔を話す。


「アグナム。ありがとう」


 しょんぼりとした表情。うつむいていて、目はうるうると涙がまだにじんでいる。

 こういう時のレテフは、本当にかわいいと思う。


「あ、そうだ」


 レテフは何かを思い出してポケットに手を入れる。

 そして1枚の手紙を俺に差し出す。


「これ、ローチェがアグナムに渡してって」


 俺宛に、手紙どんな内容だ? とりあえず見てみよう。

 レテフが持っていた紙は、ラブレターのような封をしてある手紙だ。


 俺はその封を開け、中にある手紙を開き、その内容に目を通す。


 アグナムへ♡


 次は、僕と対決だね。まあ、僕といい勝負になるくらいには戦ってよね。

 当然、勝つのは僕だけど。


 あと1つ、君に話があるから、今夜僕の家に来てほしいんだ。もちろんあなた1人で。

 そこで、話したいことがある。


 もし来なかったら、アグナムが持っているばらされたくない秘密。僕が大勢の前でバラしちゃうよ。

 アグナムが秘密をばらされたくないというのなら、ぜひ僕の所に来てね。


 そしてその下には、ローチェの家の場所が描かれていた。


「アグナムちゃんの秘密? どんなことかな」


 うぅ……、思い当たりがありすぎる。元の世界の事かな、それとも俺が男だったことかな。


 さすがにそれはまずい、みんなの下着姿や裸の姿とか見ちゃってるし。


「どうする? 罠かもしれないわ。大丈夫なの?」



「心配ありがとうリヒレ。とりあえず行ってみるよ。ただ、何か起こった時のために、頼みがあるんだ」


 確かに怪しい手紙だ。けど、どんな秘密を握っているかわからない以上行かないわけにはいかない。


 とりあえず、対策はある。


「家の近くまでは一緒に行こう。それで、家の少し手前で僕が1人になって乗り込む。サナたちは遠目から見張ってほしい」


 まあ、1人で家に来いとは言ったけど、その手前までは1人じゃなくても大丈夫だよね。


「それで、夜遅くになっても来なかったら、家に突入してほしいんだ」


「わかったわ。私のアグナムに、手出しはさせないわ!」


 それで、罠だった場合はサナとレテフに突入させて何とかしてもらう。そしてリヒレには助けを呼んでもらう。これでリスクは減らせるはずだ。


「ということでサナ、レテフ、リヒレ、協力よろしくね」


「わかった。力になるよ!」


 サナの力強い掛け声に、レテフとリヒレも反応する。


「安心してアグナム、あなたに危害は絶対に加えさせないわ」


「こ、こんな私だけど。何とかやってみます」


 みんなが首を縦に振ってくれた。だったらやらないわけにはいかない。

 そしてローチェか、敵か味方かもわからない相手。そしてどこまで俺の秘密を握っているのか。それも気になる。


 とりあえず、どんなことになるかわからないけれど気を引き締めていこう。




 そんな思いを胸に俺たちはこの場を去っていく。

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