第49話 レテフVSローチェ

その2日後。

 エンペラーカップ2回戦が行われる日だ。




 俺とサナはすでに戦いを終えた。強さはそれなりの相手に勝利を重ねた。後はレテフだ。


「レテフ。強敵だと思うけれど、頑張ってね」


「応援ありとう、私のアグナム。あなたの応援があれば、私はいくらでも戦えるわ」


 レテフはフッと微笑しウィンクしながら答える。

 レテフの対決相手はあのローチェだ。どんな強さを持っているんだ?


「確かローチェさんは極東エリアで魔法少女チャンピオンになるくらい、実力があるって聞いたわ」


 極東エリアのチャンピオン。かなり強い相手ってことだよな。


「1回戦も一方的な試合だったって聞いたわ。けど、勝てば次は私のアグナムだもの。負けられないわ」


「頑張ってね!」

 リヒレが強く言葉をかける。


「じゃあ行ってくるわ」


「頑張って。絶対勝ってね」


 俺の応援の言葉を耳にし、彼女は会場へ。俺たちも試合を見に観客席の方へ足を運ぶ。


 会場の方にはそこそこ観客が入っている。ローチェの噂はすでに町中に広まっていた。きっとその強さを見たくてみんな詰まったのだろう。



 ローチェはすでに会場にいた。会場の観客たちに、大声でアピールをしていたのだ。


「私、相手がどんな強くても、頑張るよ~~」


「ローチェちゃん。頑張って!」


 観客席から応援のような言葉が多数行われる。海辺でもそうだが、どうすれば周囲に好かれるかを熟知しているようだ。

 そしてくるりと所定の位置へ向かって歩く。



「ふ~ん。今日はあんたが対戦相手だったんだ。奇遇だねぇ」


「それなりに実力はあるみたいね。でも悪いけれど負けるわけにはいかないわ。次のステージに、逢いたい人がいるから」


 互いに接近し握手をする。そして数メートル離れて、対峙する2人。


「まあ、夢を見るのは自由だし。せいぜい頑張りなよ」


「なんとでも言いなさい。私は、絶対に負けないわ!」


 互いに言い争う。どっちも絶対に負けないという気持ちを、全面的に押し出しているという感じだ。


「両者。試合開始!」


 騎士の格好をした審判が叫ぶ。


 そして両者は一気に戦闘体制へ。



 黒き輝きの力よ、我が道を示す弓矢となり、遮るものを打ちぬけ!!


 ソウル・ビート・スターライト・インティーナ


 彼女がそう叫ぶと、ピンクと白をした弓矢が出現し始める。綺麗さとかっこよさを兼ね備えた洗練されたデザインだ。



「じゃあ僕も、行くよ!」


 そしてローチェはパッと手を上げ。


 美しくも強き力。今ここに花咲かせよ


 ムーンライト・ブルー・パンサー


 ローチェが出したのは大きめな鉄でできた扇子だ。それも両手に。



 服装は、赤を基調とした、どこかチャイナガールに近い服装だ。



「じゃあ。僕の勝利のために、行っちゃうよ──」


 その鉄扇を、強く振りかざす。すると電撃を帯びた丸い砲弾が数発出現し、それがレテフに向かっていく。


「その程度。撃ち落ちしてやるわ」


 レテフは即座に弓を構える。弓に魔力が充填されているのがわかる。そして矢が5~6本出現し、迎撃。


 2人の攻撃は、激しく衝突し、爆発。強さは互角といった所だ。


 その後も、もどかしく、慎重な試合運びが続く。


 試合開始から1分が経過しても、いまだに両者は直接、武器を交えていない。


「2人とも、仕掛けないよね」


 サナがこわばった表情でささやく。


「まあね、レテフは弓使いで遠距離攻撃が得意。対して、ローチェは近距離でも戦える。迂闊に近づけないんだよ」


 そんな狙いを、ローチェは看破していた。後退した直後、再び一気に急加速。


 向かってきた弓矢の間を鮮やかにかわしながら突き進む。それはまるで独楽のような回転、そしてひらりとした舞妓さんの舞踊に近いかわし方だ。


 そして鉄扇を振り上げ、レテフに攻撃を仕掛ける。


「「レテフちゃん!」」


 サナとリヒレの悲鳴が聞こえだす。


 だが──。


(大丈夫。これが真の狙いよ!)




 俺の言葉通り、ローチェが接近しようとすると、レテフは弓矢を複数繰り出して彼女をけん制する。近づいたら、弓矢でくし刺しにするといわんばかりに──。


「出方をうかがっているってことね」


「そうだ、リヒレ」


 けど、どっちも手をこまねいているとは思えない。どこかで勝負に出るはずだ。どうする──。


 俺は策の棒を気が付けば強く握りながら、固唾をのんで見守る。


 そしてその言葉をささやいた後──、ローチェが動き始めた。


 グッと、膝を曲げ、身体を前方に倒す。

 そのまま一気にトップスピードで前へ。


「ええい、まどろっこしい。一気に決めてやる!」


 数メートルあった距離が一気になくなる。


 しかし、レテフもそれを許さない。


(かかったわね。待っていたのよ。この反応を)


 レテフは理解していた。自分は弓使い、そしてずっと距離をとり続けていれば、相手は自分を遠距離が得意だと考え、接近戦に持ち込むと。


 その瞬間が今。


 レテフはチャンスとばかりに矢を地面へ、そして魔力をこめて地面に放つ。


 そしてレテフの足元付近に魔力がこもった魔法陣。

 そんな足場に向かって全力を出したローチェは、当然止まるしかない。


 レテフの思惑通り、ローチェはいったん立ち止まり、1歩後退しようとする。

 そのスキを、レテフは逃さなかった。


「スキありだわ」


 後退しようと、飛び上がったスキに弓矢を何本も解き放つ。今までの魔法少女でこれをよけ来た者はいない。


 しかし──。


「やるじゃん。けど──甘いよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る