第14話 アグナムへの思い、届け!

 俺とサナが東のサテライトエリアへ向かっているころ。


 街の中心の交差点。朝の時間が過ぎ、閑散としだした喫茶店。


 アンティークな小物やいい香りがする花が置いてあるセンスを感じる店。

 コーヒーをすすりながら二人の少女がカウンターで話していた。


「とりあえずこの時間帯ならお客さんは来ないわ。腹を割って話しましょうリヒレ」


「そうね、相談事があるんでしょレテフちゃん。私でよければ教えて」


 一人は黒髪のロングヘアの少女、レテフ。何を隠そうこの店はレテフの家族が経営している店なのだ。

 そしてもう一人はレテフの親友であるリヒレ。眼鏡をかけていて茶髪。おっとりとした性格の少女だ。


「じゃあ、本日はリヒレちゃんだけに~~、最近のコイバナを、聞かせちゃってあげちゃうわよ~~」


「どこかテンション低いじゃん。その様子じゃうまくいっていないようね」



 レテフは昨日自分が行った行いをリヒレにすべて報告した。


 自分を助けてくれた相手に一目ぼれをしたこと。その相手に、自分の思いを告げるために舌を入れて不意打ちでキスをしたこと。

 その後、自分の体を使って彼女の体を洗った、しかし途中でお邪魔虫(サナ)が入って全てを台無しにされたこと。


 必死な表情のレテフに、リヒレは思わず苦笑いを浮かべながら言葉を返す。


「レテフちゃん。ドストレートな伝え方ね」


 当然な感想だ。俺の気持ちを前面的に無視した一方的なやり方。男女であれば警察沙汰になってもおかしくない案件だろあれ。


「だけどさすがにいきなり舌入れキスはやりすぎかな? そんな巨大隕石級のギガインパクトをはじめっからぶつけちゃったら、相手だってドン引きして警戒されちゃうと思うよ」


 俺からすると問題点はそこだけじゃない気がするのですがそれは。


「確かに一方通行だったわね。そこは反省しているわ」


「あと最大の問題点があるわ。それは相手が女の子だってこと。女の子同士ってことを彼女が理解してくれるかが問題よね」


 その言葉にレテフは感情を一気に爆発させる。


「なんで? 女の子が女の子に恋をして、女の子同士で恋愛をして一つにつながって、女の子同士で愛をはぐくみ、女の子同士で家族を作り生涯をともにする。世界のだれもが当たり前のように行っている行為でしょう。それのどこがいけないのよ!! #何がおかしいのよ__・__#!!」


 両手をぎゅっと握りながら叫び、力説するレテフ。リヒレはその迫力に少し圧倒されながらも、苦笑いをして冷静さを保つ。

 そして落ち着いてコーヒーを一口すすりながら言葉を返していく。


「レテフちゃん。あなたはそう思っているかもしれないけれど。すべての人間が同じ思考回路をしているわけではないのよ。あなたはそう思っていても、世の中には同性同士の恋愛に拒否感を持つ人だっているの。彼女の反応を見ると、そう考えている可能性は十分にあるわ」


「そ、そんな──」


「そんな固く閉ざしている相手に、残念だけどレテフちゃんの積極策は逆効果よ。レテフちゃんだって、自分の行為が独りよがりだって心の底ではわかっているでしょう?」


「そ、それは……」


 リヒレの言葉がレテフの心にズキッと突き刺さる。正直、本心では理解していた。


 自分の行為が、アグナムの不興を買ってしまうのではないか。

 二度と、自分を愛しているのではないか。

 そんな思いがレテフの心を痛ませ、昨日の夜は目に涙を浮かべるほどの不安にさいなまれていた。


「向こうはやっぱり「同性」としての意識が強いから、もし仮にレテフちゃんが親睦を深めて距離を縮めたとしても、相手からしたら「親友」、それ以上でもそれ以下でもないの。これを「交際相手」、もしくは「恋愛対象」に持っていくには相当な努力が必要よね」 


「じゃあ、私の恋はかなわぬ夢ってことなのかしら」



 シュンとして、飲み干したコーヒーを机に置く。


「けど全く可能性がないわけじゃないわ。相手の理性を溶かしていくにはね、もっとじっくりと甘く、優しく溶かしてあげるのが一番なの。それこそ口の中でキャラメルを溶かすような感覚でね。任せて、あなたにはこのリヒレがついているわ」


 その言葉にレテフは少しだが自信を取り戻す。


「ありがとう。私、頑張るわ」


「そうね、応援してるわ。私も力になるから」


 壁があるならば、乗り越えればいい。自信がないなら、取り戻せばいい。



 ポジティブであきらめない彼女は、まだ夢を見ていた。

 初めて心に決めた女性と絶対に結ばれるという夢を。


 強引だが、本物である思いを胸に、少女レテフは突っ走って行くのだった。







 そして俺とサナはギルドから出て、街を歩く。にぎやかな商店街を抜け、住宅街を抜ける。途中すれ違うひとが犬耳や猫耳をつけているのに気づく。亜人というやつだ。


 なんかファンタジー作品みたいだな。


「アグナムのいた国には亜人はいないの?」


「ああ、いないかな」


「へぇ、珍しい国だね」


 なるほど、この世界では亜人は良くいる存在なのか。

 そして早歩きで20分ほど。


「ここが目的地ね」


 目的の東エリアに到達。とりあえず周囲を見回してみると──。


(随分と貧しい街だな)

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