第13話 き、距離が近い。男だったなんて言えない
そして机の下から1枚の紙をそっと取り出す。
「とりあえず~~、この紙を読んで、承諾したら左上の空欄の所を~~、小指でー、軽く押してください。そしたら~~、契約は完了です」
とりあえず契約書を読んでみる。内容は報酬の取り決めや細かい規約だった。
そして非常時には身を呈して街のために戦う事が記述してある。ちょっとサナに聞いてみるか。
「時々ね、魔法を使って街を襲ってくる集団があるんだよ。だからそういうときは私達が率先して戦ってほしいってこと。勿論ただ働きじゃなくてちゃんと報酬ももらえるからね」
まあ、魔法があるということはそれを悪用した魔王のような集団がいてもおかしくはない。
そういう奴らと戦えってことだろう。魔法を使えるものの宿命だ。
特に迷いもなく俺は左上の空欄の部分に小指を当てる。すると紙自体が白く光り始めた。
「これで~~、契約は完了です。これからも~~、この街のために、よろしくお願いしますね~~」
にっこりとした笑顔で言葉を返すエリムさん。これから大変そうだけど頑張ろう。
こぶしを握ってそう決心していると、周囲の視線をひしひしと感じ始める。
(何かみんな俺に注目してない?)
「当然だよ。昨日の一件でもう有名人だもん」
すると、そばにいた金髪で3つ編みをした魔法少女が話しかけてくる。
「アグナムさん? 本物だ。ハンサム~~」
「結構イケメンでカッコイイですね。私憧れちゃいます!! 握手してください」
そしてその取り巻きたちも話しかけてきた。
目の前まで顔を近づけ目をキラキラとさせる。女の子同士と思い込んでいるせいか距離が近すぎる。
キャッフフとした雰囲気がこの場を支配。
「昨日あのユピテルさんを倒したんでしょ」
「アグナムさんだっけ。何かイケメンでかっこいい。私惚れてまうかも~~」
金髪の魔法少女は目をキラキラさせながらじっと見つめてきて顔を近づけてくる。その距離数センチ、近いって。
「ねぇねぇ、アグナムさんはどんな魔法を使ってくるの? 教えて教えて」
さらに後ろからツインテールの魔法少女がぎゅっと抱きついてきた。ちょっと、胸が当たってるって。
羨望の眼差しで見てくれるのはありがたい。けど女の子として認識しているからすぐに抱きついたり、近い距離で話しかけてくる。
中学や高校生の時、よく女子が友達同士で胸を触ったり、抱きついたりしていたが、そのまんまあれをやってくるのだ。
明らかに距離が近い、顔が近い──。男だったなんて当然言えない。言ったら変態扱い確定だ。
「ちょ、ちょっとごめん。俺、魔法使いになったばかりでそういうところがよくわからないんだ。それに今用事があるからまた今度にしてくれる?」
そして何とかサナの所に行く。慕ってくれるのは素直にうれしい。けど大変だ。
サナもちょっと俺を見るなり苦笑い。
「アグナムちゃん。なんか、モテモテだね」
「ま、まあ今だけでしょ……」
そしてサナが1枚の紙を俺に見せてくる。
「それとさ、エリムさんがこのエンペラーカップ。出場しないかって」
「エンペラーカップ?」
カップってことはトーナメントかなんか行うってことか?
俺が腕を組んで考えていると、サナがその概要の紙を俺に見せながら説明する。
「この街ではね、年に一度街一番の魔法少女を決める大会があるの。勝つごとに賞金を得ることができて、腕自慢の魔法少女たちが戦う場でもあるの。もちろんユピテルも参加するから、勝ち進んでいけば、戦うことができるよ。どう、出場したいって思わない? 」
そんな戦いがあるのか、なんかわくわくしてきた。特にユピテルと大勢の前で戦えるというのが嬉しい。
昨日戦った時は3対1で記録にはつかなかった。だから、もっと強くなって、今度は1対1でユピテルに勝ちたい。だったら、出す答えなんて一つに決まってる。
「もちろん俺も参加したい。サナも参加するの?」
「もちろんだよ。私だって負けたの悔しいもん。参加したいよ」
強気で握りこぶしをしているのを見ると、本心なのだろう。そして手続き。
「エンペラーカップ~~、参加希望ですね。それでは~~、この書類に~~の記入とサインをお願いします」
エリムさんはのんびりとした態度で書類を渡してくる。俺はその書類を軽く読んだ後、指印を押す。
「ありがとう、ございます~~。アグナムさんがご参加とあれば~~、きっと大会も大盛り上がりです~~」
これで手続きは完了。待ってろよユピテル。今度は倒してやるからな。
「あと早速頼みたいことがあるのですが~~、2人ともよろしいでしょうか~~」
「私たちなら大丈夫だよ何?」
「東にあるサテライトエリアで~~、
「アグナムちゃん、私はいいけどどうする?」
「どうするって、敵が来てるんでしょ? 行くしかないじゃん」
「わかった、じゃあ2人で参加します」
そして俺とサナはその依頼書にサインをしてその場所に向かうこととなった。
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