第10話 私がタオルよ!!

 そうレテフだ。別れたはずの彼女がここにいる。それも全く服を着てない全裸。そして両手で胸と大事な部分を隠しながら微笑を浮かべている。


 その微笑は──、獲物を捕らえようとする肉食動物のような目つきだった。


「家まで追ってあなたの住まいを特定したの。そして更衣室の天井からずっとあなたがシャワー室に入るのを見張っていたのよ」


 思わずぞっとする俺。


「そ、それ、ストーカーだよね。犯罪にならないの?」


「気にしないで。私と恋人関係になれば、ただのじゃれあいでしかないのよ。私はアグナムのためならどんなことだってするわ。あなたのためなら、マグマの中、深海の中、ジャングルの中、あなたのスカートの中よ」


「最後自分の願望だよね。っていうかさすがにやめてくれない? サナに見つかったら、修羅場になっちゃう」


 俺が何とかレテフを説得する。するとレテフは1つため息をつく。


「わかったわ。確かに無理やりだったかもしれないわ。ちょっと反省するわ。一方的だったと今になって思うわ」


 あっさりと身を引いてくるレテフ。

 少し意外だった、ここまで犯罪者まがいのストーカー行為をしてきた割にしつこく迫ってこない。


「じゃあ、体を洗わせて。そしたらもうこんなことはしないわ。約束するから」


 そういってレテフは石鹸とタオルを見せてくる。金輪際もうしない、とりあえず彼女の言葉を信じてみよう。


「わかった。じゃあそれだけだよ」


 俺はため息をついて承諾する。負けたよ、ま、それで帰ってくれるならいいだろう。


「ありがとう。じゃあさっそく洗うわ。背中向いて」


 そういって俺はシャワー室の椅子に座り背中を向く。


 すると――。


「ひあぁぁぁぁっ!?」


 やわらかい絹のような肌の感触と、慎み深いたわわな感触が俺の背中を支配する。予想もしなかった感触に思わずびくっと驚き振り返った。


「体洗うだけって言ったよね!!」


「私がタオルよ!!」


 なんだその言葉。

「別に、確かに私はタオルを持ちながら体を洗おうかって言った。けどあなたの体を洗うのにそのタオルを使うなんて一言も言っていないわ。思い込みでしょ」


 すごい屁理屈。だが、嘘は言っていない。


「安心して、私自身がタオルになって。あなたをきれいにしてあげるわ」


 レテフが恍惚の表情を浮かべながら石鹸を自身の体に塗りたくる。

 ねっとりとした艶かしい表情で俺に近寄ってくる。


 そして……。









「終わったわ。体、私がタオルになってピッカピカよ!!」



「ああ、汚れてしまった……」




 彼女がタオルになり、俺の体は石鹸まみれになる。なんだろう、体はピカピカになったはずなのに、心の中がある意味汚れ切ってしまった感じ。


 俺はそのショックにタイルの床に放心状態になって呆然としている。

 そんな姿を見てレテフは首を傾け微笑を浮かべながら一言。


「じゃあ、そろそろお別れにしましょう。またやりたくなったら、いつでも声をかけてね。じゃあね」


 そしてレテフがドアを開けようといたその時。


 ガラッ――。


 レテフが開けようとした入り口の扉ががらりと開く。

 レテフは予想外の行為に思わず真顔になる、俺はそこにいる人物に視線を向ける。


「サナ、どうして来ちゃったの?」


 放心状態のサナ。何が起きているか理解していない、いや、理解しているが、頭が拒絶反応を起こしているのだろう。  


「ちょっと物音がしたから心配になって、それよりアグナムちゃん。これはどういうことなの? なんでレテフちゃんがいるの?」


 ま、まずい。どう弁解しよう――。

 俺が頭を抱えているとレテフが何の迷いもなく真顔でサナに言い放つ。


「決まっているじゃない。裸のまま肉体を密着させあってあんなことやこんなことしていたのよ」


「ち、ちがう、体を洗っていただけだ。いやらしいことはしていない」


 お、おい!! やめてくれ、確かに嘘は言っていないけど確実に誤解されるだろ。

 俺も必死に叫び弁解する。しかしその声はサナにはすでに届いていないことがわかる。


「裸、密着、アグナムちゃん。私の家にレテフちゃん呼んでそんなことを――」


(どう弁解しても無駄だなこれ)


「べ、べ、べ、べ、別に女の子同士がダメとかそういうわけじゃないよよよ?!? どんな人と愛するかは、人の自由なんだししし――」


 手をあわあわと降り、顔を真っ赤にしながらの一言。明らかに動揺している。


「け、けど2人はまだあったばかりなんでしょ? まだそういうこ、ことは……」



「早いと思うの~~~~~!!!!」


 サナは顔をリンゴのように顔を真っ赤にした後、シャワー室を去って部屋に戻ってしまう。

 予想もしなかった目の前の現実に脳が処理しきれなくなりショートしたのだろう。

 それを見ていたレテフも帰る頃合いと感じたのか。


「じゃあね、これからもよろしくね」

 そう言ってクスッと笑い、投げキッスをしてこの場を去っていく。更衣室の窓が開く音、誰かがそこから立ち去る音がした。おそらく帰って行ったのだろう。


 俺は何とか立ち上がりため息をつく。そして体を流し、着替えをした後ベッドで枕に顔を伏せているサナのもとによる。



「何? レテフちゃんの所に行けば。2人っきりのベッドで私には言えないようなことをいっぱいすればいいじゃん」


「ごめん、俺の話を聞いてほしい。あれは誤解なんだ」


 サナの話をさえぎるような形で俺はさっき起こったレテフとのことを話す。

 俺は彼女を呼んだりしていない、勝手に更衣室の窓から入ってきてやってきた挙句無理やり彼女がやってきたと――。


 するとサナは枕からこっちに涙目の視線を移してくる。


「本当に?」


「本当だよ」


 サナは顔を膨らませながら俺をじっと見つめてくる。頼む、信じてくれ、俺のこと。


「し、信じるよ……。あんなこと、もうしないでね」


 ぼそっとつぶやいた声に俺は安堵する。とりあえず誤解は解けたみたいだ。とりあえずあいつには気をつけなきゃな。


 俺は一言サナに「ありがとう」と言って眠りにつく。一緒のベッド、不思議と変な気持ちになることはなく、彼女を抱くような形になり俺は1日を終えた。



 ☆   ☆   ☆


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