第9話 サナ、あんまり抱きつかないで【レズ回】

「どういうつもり?」




 その時になってやっとレテフはサナに視線を向け始めた。


 まるで、初めてサナがいることに気が付いたようなキョトンとした表情で彼女を見つめる。すると──?


「なんのつもり? 私の愛の邪魔をするなら、あなたを微粒子レベルまで粉々にしてやるわ!!」


「何のつもりは、こっちのセリフだよ!! いきなりアグナムに何するの?」


「何って、キスのこと?」


「それ以外に何があるの! いきなりキスなんてどう考えてもおかしいでしょ!!」


 サナの言葉にレテフがため息を漏らし──。


「別に? 私にとってはふつうよ。でもそれがあなたにどう関係しているの? 2人の問題でしょう? 彼女がそれを望むなら特に異論はないはずよ」




「それは……」


「それとも、あなたはアグナムの何なの? 恋人? 婚約者? 彼女?」


 レテフの反論にサナは思わず黙ってしまう。確かに、こういうのは俺がやめてくれと言わないと、止める理由がなくなってしまう。




 一方当の被害者である、俺はというと──。


(生まれて初めての、キス──)


 あまりのショックに言葉を失い呆然としている。そんな俺にサナが詰め寄り叫ぶ。


「もう、アグナムもなんか言ってよ。いきなりキスなんて非常識ってちゃんと言わないと!!」


 あ、ああ……。そうだった。


「さ、さすがにいきなりキスは、ないんじゃないかな──」


 俺は彼女の予想外の行為に圧倒されながらも、作り笑いをしながら優しく言葉を返した。


 しかしレテフは1歩も引かない。


「そんなことないわ。私は、あなたにお姫様だっこされた時に好きになってしまったの。その唇が欲しいって体中が疼いてしまったのよ。キスがなかったら、私は欲望を抑えきれなくなってもっとエッチな事をしてしまっているわ。私を惚れさせた責任をとって!!」


 すごい必死なのが分かる。演技ではなさそうだ。そして……。



 (ちょっと待ってそれはさすがにーー)


 今まで女の子とキスをしたことがない事に帳尻を合わせると言わんばかりの、濃厚で野獣のような、獣のようなディープキス。


 時間にして数10秒だったかもしれないが、俺にとっては永遠に感じられた。そして終わった後はあまりの衝撃にレイプ目で茫然となり、サナに肩を貸してもらいながら何とか彼女が住む部屋に帰ったのだった。









 そして夜、街の中心部の住宅街にあるサナの部屋にすむ事になった俺。


「ちょっと、散らかっててごめんね」




「そ、そんなことないよ」




 心からそう思う。サナの部屋は豪華ではないものの、シンプルで片付いている。綺麗な花が飾られている花瓶や、かわいい小道具などがあってとても女の子っぽいと感じた。




 今日はいろいろあって疲れた。俺がソファーでぐったりと倒れているとサナが話かけてくる。


「じゃあ、私先にシャワー浴びちゃうね」




 するとサナはなんと突然自分の服を脱ぎ始めたのだ。まて、今の体は確かに女だけど心は男のままなんだぞ!! 

 彼女のスイカのようなたわわな胸とその綺麗さを引き立てるような純白の下着が目の前に現れる。


 思わす俺は目をそらし体を後ろに向ける。サナは不思議そうな表情をし始め、何食わぬ表情で俺に抱きついてくる。


「何で驚いているの? 別に女の子同士何だから問題ないでしょ」


 背中には大きなマシュマロの感覚2つ。理性がぶっ飛びそう──。


 恐らく本人としてはスキンシップの自摸にでやっているのだろうが……。だがこれ以上取り乱すと流石に怪しまれると思い、俺は冷静な態度を取り戻す。


「ああ、こめんね。そ、そうだよね……」


「そうだよ、一緒に行動するんだから、ちゃんと親睦を深めないと!!」


 サナが目をキラキラさせながら言葉を返す。


「じゃあ、私先にシャワー浴びてくるね!!」




 そして彼女はシャワー室に向かっていった。




 ポツンと部屋に残された俺は頭を抱える。


 確実に彼女は俺が男であったことを知らない。下着姿を見てしまった以上言えない。


 俺を確実に女の子として扱ってくる。






 何かにつけて抱きついてくるし、何より距離が近い。歩いている時も、冗談交じりに腕を組んできたり、腕をくっつけたりしてくる。


 理性が持つのだろうか、心配になる。


 ──なんとか頑張ろう。


 そして10分ほどするとサナがシャワーを浴び終える。体にバスタオルを巻いた姿。お風呂に入って体がほでっていて、とても色気があるように見える。


「じゃ、じゃあ次は俺が入るよ」


 そして更衣室に入り、服を脱いで風呂に入る。


 あれっ、お尻が引っかかる。

 


 最初に違和感を覚えたのはパンツを脱ごうとした時だった。なんとパンツが大きいお尻に引っかかってしまい脱ぐことができない。

 仕方なく、ゆっくりと丁寧にパンツを脱ぐ。


 今度はシャツを脱ごうとしたとき。


 う、うそ……、胸が引っかかる。


 今度は大きい自分の胸が引っかかってしまうのだ。仕方なく、脱ぎ方を変える。

 腕を交差して裾を持ち、胸がこすれないようにしてゆっくりとシャツを脱ぐ。


 いわゆる女の子脱ぎという脱ぎ方だ。


 

 ただ服を脱ぐだけだったのに、自分の性別を嫌というほど痛感させられた脱ぎ方だった。こんなことがこれから続くのか、大変だな……。


 俺がシャワーを浴びながら、今日のことを思い出す。


(いろいろあったな今日、うまくいくように頑張らないと)


 そんなことを考えていると──。






 ガラガラガラガラ、コトッ。


 更衣室から物音がする。


 誰かが入ってくるのか? 俺は思わずその方向に視線を向ける。すると――。




「ふふふ――。


 俺は予想もしなかった光景に思わずフリーズしてしまう。


「レテフ、だっけ――。何でここにいるんだ?」


 そうレテフだ。別れたはずの彼女がここにいる。それも全く服を着てない全裸。そして両手で胸と大事な部分を隠しながら微笑を浮かべている。


 その微笑は──、獲物を捕らえようとする肉食動物のような目つきだった。

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