第8話 初めての、濃厚なキス

 オオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ────!!!!






 闘技場いっぱいに観客達の大声援が鳴り響く。勝ったのか、俺。



 魔力を消費しすぎているのか体が重くて、力がうまく入らない。恐らく魔力の使い過ぎなのだろう、これから注意しないと。

 すると救護班の人が来て担架に運ばれ始めた。とてもふらふらするような感覚。


 そして闘技場の中に運ばれ、サナやユピテル、レテフと一緒の部屋でけがの手当てなどが行われた。





 手当てをしながら、意識を取り戻したサナが微笑を浮かべながら話しかける。


「すごいじゃん。あのユピテルを倒しちゃうなんて」


「ま、まぐれだよ。次はああはいかないと思う」


 苦笑いを浮かべながら言葉を返す。そりゃそうだ、相手が俺の事をよく知らなかったからこそできる芸当だ。次やったら確実に負けると思う。


「けど、すごいね、勇気あるね!! あそこで戦うなんて」


「あ、ありがとう。まあ、意地みたいなものだよ。なんか、許せなくって」


 そうだな、あんなの理想の魔法少女じゃない。そんな意地が、俺を戦いに引きずり出した。そんな感じかな?


 そしてユピテルの意識が戻っていないのを確認するとさらに話しかける。


「あのさあ、今回って俺達が乱入した戦いだよね。流石に記録にはならないでしょ?」


「確かに、記録にはならないよ、流石に3対1じゃね……。審判もそう言う雰囲気だから叫んだだけだと思うよ。けどあの試合は観客達の記憶には残るよ。アグナムちゃんがユピテルに勝った試合として。明日から有名人になっちゃうかもね」


 いきなり有名人か。大変そうな日常になりそうだ。

 その後、俺達は手当てが終わる。ユピテルとレテフも意識を取り戻した。


 2人とも何も言わずにこの場から去っていく。そして俺達も歩けるくらい体力が回復してきた。

 話しあった結果、サナの家に行くことになり手当てをしてくれた人に礼をいってからこの場を去る。





 そして闘技場を出る。入口にぽつんと一人の少女が立っていた。


 黒髪の少女レテフだ。

 俺達の存在に気付くと彼女がこっちによってくる。

「待っていたわ、さっきはありがとう」


「いやいや、勝手にやっただけだから」


 体はぼろぼろだが、とりあえずは無事なようだ。フッと微笑を浮かべながら見つめ合う形になる。


「傷とか、大丈夫?」


「サナさん。とりあえずは平気よ。しばらくは戦えそうにないけど」


 そしてレテフは俺をじっと見つめてくる。


「アグナムさん。私を助けてくれたでしょう。お礼がしたいの」




「いえ。受け取っていただくわ」



 アグナムの頬を固定するようにぎゅっと両手を当て、赤い唇を強く重ねた。


 予想もしない突然の出来事にサナは言葉を失う。


「ン、ン、ンンン~~~~~~~~~~~ッッ!!!!」


 すると少女は頬から手を放し、ぎゅっと俺の腕をつかむ。


 その感覚を感じた俺は何とかここから脱しようともがき始める。


 しかし予想以上に彼女の力が強く、腕を全く動かすことができない。

 後ろの壁と唇からの強い圧力のせいで顔を離すことができない。


 その間にも少女は、まるで獣のように、アグナムの唇をむさぼるようにキスを続ける。



 そして──。


 スッ──!


(ちょ、これはまさか……)


 レテフの唇の間から柔らかく、生暖かい感触をしたものが口に入ってくるのを感じた。

 予想もしなかった行為にサナは顔を真っ赤にし両手で頬を覆う


(ま、まさかの舌入れ???)


 すぐのそれが彼女の舌であると理解する。


 予想もしなかった行為に俺の頭はパニックを起こし頭が沸騰しそうになる。

 俺も何とか舌で押し返そうとするが、彼女は気にも留めず、その舌を絡み合わせる。


 俺の舌や歯茎、口の中のあらゆる場所を感じようと貪るように舌が動き回る。本当に獣のようなキスだ。


 ジュルルル──、ジュッ、ジュッ、ジュル~~~~~~!!


 絡み合う二つの唇、ほんのりとしたレテフの唾液が俺の口の中に送られているのがわかる。当然俺にとっては初体験だ。

 互いの舌がいやらしく絡み合う、濃厚なキス。彼女の柔らかい舌で、口の中がとろけるような感覚。


 さらに、彼女はするりと俺の首に、なめらかで細い腕を、蛇のように絡み付ける。






 その時間は俺にとっては永遠に感じた。ようやくレテフはキスを終え唇を離す。 



 レテフは顔をほんのりと赤くし、恍惚な表情を浮かべながらぺろりと唇を嘗め回す。


「嬉しかった? じゃあもう一度しましょう──」


 そうささやきながら、桃色の唾液でぬれきった唇が俺の唇に近づいてくる。

 さすがにこれ以上はまずい。

 理性では理解していたが、両腕を再び彼女の手ががしっとつかんでいて全く動くことができない。


 じっとレテフの水色の瞳が俺の目を。見つめている。


 そして再び彼女の唇が俺の眼前まで接近し──。




「ダメ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!」


 その寸前のところ、キスまで何ミリかというところでサナによって引き裂かれる。


「もう! 2人ともいきなり何をやっているの。しっかりしてよ!!」



「どういうつもり?」


 その時になってやっとレテフはサナに視線を向け始めた。

 まるで、初めてサナがいることに気が付いたようなキョトンとした表情で彼女を見つめる。すると──?


「なんのつもり? 私の愛の邪魔をするなら、あなたを微粒子レベルまで粉々にしてやるわ!!」


「何のつもりは、こっちのセリフだよっ!! いきなりアグナムに何するの?」


「何って、キスのこと?」


「それ以外に何があるの! いきなりキスなんてどう考えてもおかしいでしょ!!」


 サナの言葉にレテフがため息を漏らし──。


「別に? 私にとっては普通よ。でもそれがあなたにどう関係しているの? 2人の問題でしょう? 彼女がそれを望むなら特に異論はないはずよ」

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