第7話 最強との対決

 圧倒的な声援、全員がユピテルの味方になったような感覚。これじゃあ俺達が悪役じゃないか。


 まあ、周囲を味方につけるのだって実力の1つだってことか。仕方ない。

 そして俺は倒れこんでいる黒髪の少女に優しい口調で話しかける。


「君、立てる?」


「な、なんとか……」


 少女が足をぐらぐらさせながらゆっくりと立ち上がる。無理、しているのかな──。


「俺はアグナム、君の名前は?」


「私は、レテフ」


 ダメージを受けた後のボロボロな姿に流石の姿に、サナも心配そうな表情になり声をかける。


「大丈夫、レテフちゃん? 無理しないで、後は私達が何とかするから!!」


「大丈夫よ、これは私の戦い。最後まで、戦わせて。お願い!!」


 ボロボロで満身創痍。しかしその気持ちは強く本物だということが分かる。今まで俺の世界ではみたことがない迫力だ。


 その迫力を見た俺は、レテフが強い覚悟を決めてここにいることに気付く。


(そこまで強く思っているなら、逆に失礼だな──)


「わかった、一緒に戦おう。けど無理はしないで」


「わかったわ──、ありがとう」


 ボロボロの姿で、レテフがフッと微笑を浮かべる。俺はその姿を見てりりしくて可愛いと感じてしまう。


 そして3人の視線がユピテルに集中する。


「いいだろう、まとめてかかってこい」


 そしてユピテルが再び剣を振り上げる。そこから目に見えないくらいの速さでの遠距離の攻撃。


「ぐわっ!!」


 サナとレテフは何とかよけきったが、俺は初めての事態にうまくよけきれず右足に被弾してしまう。


 しかし体からの出血は無い。これが魔装状態か。


「体に魔力が灯っている間は、物理攻撃を受けても痛みは感じるけど出血はしないの」


 サナ、説明ありがとうな。もう慣れたから、大丈夫だ。

 俺はすぐに立ち上がり、ユピテルを睨みつける。


「これで最後だ、勝負を、決めてやる!」


 タッ──!


 そしてユピテルは一気にこっちに接近してくる。まずはレテフに急接近。


 剣を振り上げ、打ちおろし、薙ぎ払いの目にもとまらぬ連続攻撃。慌てて俺とサナもレテフの所に向かうが──。


「遅い!!」


 時すでに遅し、レテフは攻撃をかわしきれずに攻撃をくらってしまう。



 そしてレテフの肉体は闘技場の壁に激突、意識を失い、魔力が切れているのが俺の目からもわかる。


「レテフ選手、戦闘不能」


 無情にもレフェリーの叫び声が聞こえ出す。


「次はサナ、お前だ!!」


 ユピテルは俺には目もくれずサナに向かって急接近。マシンガンのような連続攻撃にサナは対抗できず……。


 ドォォォォォォォォォォォォォン!!


 サナは最後は吹き飛ばされたあげく、壁に激突、そのまま意識を失い倒れこむ。


 サナ選手、戦闘不能。


 無情なレフェリーの叫び声。これで残っているのは俺1人。


(流石最強の魔法少女。数的有利があっという間に消えちまったぜ)


「後はお前だけだ、それも数秒の間だけだがな」


 うっ……。その迫力に俺は2,3歩後ずさりしてしまう。

 そしてユピテルがスッと体勢をかがむ。彼女が攻撃に出ると言うのをすぐに理解した。




 認めるしかない、ろくに戦闘経験がない俺と、この街一番の実力者では自力が違いすぎる。つまり戦いが長引けば長引く程俺にとって不利になる。


 守りに入ったところで結果は変わらないだろう。




 スッ──!


 目にもとまらない早さでユピテルが迫ってくる。俺も負けじと両足に魔力を込め接近する。



 ユピテル。確かにお前は強い。俺よりもはるかに。けど弱った相手を見せしめにしていたぶる何て、こんなの魔法少女じゃない。俺はお前のやり方を認めない!


 そしてユピテルが俺に接近すると剣を振り上げ、俺に向かって振り下ろしてくる。障壁を作る術式が脳裏に浮かぶ。

 だが作ったところで壊されて、攻撃が直撃するのがオチだ。


 だったら俺は立ち向かう。


 そしてユピテルが振り下ろした攻撃、それに対して俺は剣を振り上げ切っ先でユピテルの剣に触れる。そして──。




 クルッ──。


 よし、成功した。攻撃に対して俺は剣で円を描くようにして受け流して回避。それだけでなくその推進力を利用して一気にユピテルの懐へ。


 無防備なユピテルの胴体が目の前。これで俺の攻撃が通る!!


「何っ?」


 驚愕するユピテルだが時すでに遅し。右足と左手のこぶしに魔力を込め、一気に彼女の体へ──。


「くらえぇぇぇ!!」



 彼女のみぞおちにその拳をぶち込む。


「ぐはっ──」


 だが相手は最強。ただでは終わらない。俺がこぶしをぶち込んだ瞬間、無理矢理魔力を足に込め、俺の胴体に蹴りを入れたのだ。まさかそんなやり方があるとは。


 ガードなどできず俺も攻撃をくらい、肉体が後方に吹き飛ぶ。



 観客席を破壊し。闘技場の一番後ろの壁に衝突して、その場に崩れ落ちた。


 流石に最強の魔法少女。簡単には勝たしてくれないか──。


 壁にはひびが入っている。魔装状態なので体の中にダメージはないが、強い痛みとダメージで戦えそうにない。


 体の痛みに耐えながら。顔を前方に向け、ユピテルがどうなったかこの目で確かめる。


「あいつも同じかよ」



 ユピテルも俺と一緒だ。吹き飛んだ肉体で観客席を半壊させ、壁に叩きつけられ、その場に倒れこんでいる。


 そして倒れ込んだまま起き上がらない。


「意識消失により、アグナム選手が勝利」


 レフェリーの声に周囲の観客の声がやみ騒然となる。

 そして数秒立つと──。






 オオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ────!!!!




 闘技場いっぱいに観客達の大声援が鳴り響く。勝ったのか、俺。


 ☆   ☆   ☆


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