第5話 こんな魔法少女 俺は認めない

「最初っから勇者が全力でかかったら、1撃だ。勇者のバトルは周囲を魅了する者でなくてはならない!!」


「さあ、ユピテルの本気が来るぞ──」


「これで挑戦者も終わりだ!!」




「その程度か? では今度はこちらが行かせてもらうぞ」


 するとサナが真剣な表情で話しかける。


「これがユピテルのもっとも特徴的な戦いなの。いつも彼女はいきなり攻撃をするのではなく、相手に全力を出させて、それを打ち破った上で勝利をもぎ取っているの」


「なんでそんなまどろっこしいことするんだよ」


「多分、自分の強さを、観客達に誇示しているんだと思う。1000しかない相手を、2000にも2500にも強く見せる。そして3000の力で一気に返す。会場は大きな力の衝突で盛り上がり、より一層ユピテルに魅了されファンになる。いつしか会場全体が彼女の応援であふれかえり、挑戦者はその雰囲気にのまれてしまうの」


 つまり会場をホームゲームにして有利な雰囲気にするためにあえてやっているのか。計算高いんだな。


 そんな会話をしている間にユピテルの剣が強く光り始めた。そして1回転して勢いをつけ剣を少女に向かって薙ぎ払う。


 するとその光が1直線に波動状の攻撃となって少女に向かっていく。今の俺ならわかる、その攻撃に強い魔力が伴っていることが。



 そんな強い攻撃、黒髪の魔法少女は障壁を張るが──。


 障壁は窓ガラスのごとく粉々に砕け散り、彼女の攻撃はそのまま攻撃が彼女に直撃。



 ユピテルのマシンガンのような連撃。魔力で強く光り、1つ1つの威力がとても高いのだわかる。

 少女も何とか攻撃を受けているが、次第に後手に回ってしまう。


「ぬるい、ぬるすぎるぞ!! 勇者を舐めているのか!!」


 剣の光がより一層強くなる。恐らく魔力の出力を一気に上げたのだろう。そして再び連続攻撃を仕掛ける。


 すると少女は振り上げた攻撃のあまりの威力に攻撃を受けきれず、のけぞる形になってしまう。


 そのスキをユピテルは見逃さない。


 ズバァァァァァァァァ────!!!!


 無防備になった少女に、ユピテルは再び剣を薙ぎ払う。彼女は攻撃を受けきることは出来ず攻撃をまともに受けてしまう。


 攻撃を受け、彼女の肉体が上空に吹き飛ぶ。


「これで終わりだ!!」



 殲滅のクリムゾン・プレアデス・ストリーム!!


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 ユピテルの強烈な砲撃は少女に直撃する。少女は攻撃を受け、体が吹き飛ぶ。

 俺も会場の観客もその圧倒的な強さに沈黙してしまう中、サナが心配そうな表情で話しかける。


「あれがユピテルの多技の一つ。この世界ではね、魔力指数っていう魔力の強さを表す数字があるんだけどね、彼女のあの術式の魔力指数は3000。この街では最も威力が高い技なの」


「なるほど、勇者にふさわしい強さってことか」


 少女の体は観客席の壁に激突。そのままばったりと地面に落下。


「ああ、負けちゃった」


「やっぱり勇者には勝てねぇか──」


 周囲からもそんな声が聞こえ、この試合の勝敗は決した。そう思ったその時。


「フッ、たわいもないな。ぬるするぎるぞ貴様!!」




 何と勇者はさらに攻撃を続けたのであった。倒れ込んだ直後の攻撃、身動きも取れずそのままくらってしまう。


「待てよ。もう勝負はついたんだろ。なんでまだ攻撃を続けているんだよ」


「これが、ユピテルの最大の特徴。見せしめのために負けた相手を必要以上にいたぶるの。それで自分の強さを誇示しているのよ」


 サナが深刻そうな表情で語る。彼女は弱い者を何よりも嫌い、特に一方的だったり、不様な戦いをした者には見世物にするように相手をいたぶって攻撃を続けるのだと。


 そしていたぶられた方は、その精神的ショックで精神的に立ち直れなくなったりして、魔法少女をやめてしまう事すらあるらしい。


「勇者──、そんなザコもっとやっちまえ!!」


「これが見たかったんだよ。いたぶれ、いたぶれ~~」


 周囲がヒートアップし、観客の興奮が最高潮に達している。なるほどな、この国に何かしらの不満を持っている奴が考えそうなことだ。

 分かりやすい生贄を目の前に用意し、自分が絶対に安全だというポジションからそれを見て愉悦に浸る。


 絶好のストレス解消というわけだ。



(ひどい、こんなの。俺が求めている魔法少女じゃない!! 俺が憧れている魔法少女は、そう)



 心の中で叫ぶ。もちろん俺の答えは決まっている、相手が強くたって、弱くたって、ここで助けないわけにはいかない。


 確かパージが言っていた。すでに俺には魔法少女の力が宿っているって。魔法少女になりたい、俺が心の中でそう叫んだ時、一つの言葉が脳裏に浮かんだ。

 直感でわかる。この言葉を叫べば、俺は魔法少女になれると。


 確かにあの勇者の実力は相当なものだ、周囲の反応や、サナの言葉を見ればわかる。けどそれが何だ!! 俺が求めている魔法少女は、どんなに相手が強くたって、絶対に屈することはない。立ち向かう、それが真の正義というものだ!!


 俺は立ち上がり、階段を下りる。そして観客席の一番前の壁を登って、闘技場へ飛び降りた。



 そして──。



 シャイニング・フレア・プリズムダスト・エンブレス

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