第23話:みんなのトラウマ
「ウィル様! お、お早いお帰りで……」
主人が引きつった笑みを浮かべながら迎える。
飲食用の酒場スペースにいた数人の魔族は私を見るなり会計を済ませて散るように逃げていった。
私が勇者の戦いについて聞かせてあげてとお願いするとホッとした様子で語り始めた。
「アレは何十年か前のことです……勇者を名乗る人間が突然王城に来まして……私の主に決闘を申し込んできたんです……あの頃私は人間は劣った種族だと決めつけて門前払いにしてやろうと、私に勝ったら通してやると言ったんです。
勇者は私と剣技で勝負をしました……人間にしてはやたらと強かったですね……ですがまだ主に合わせるには弱いと判断しまして私が倒そうとしました……その時……」
そこで口ごもる主人、勇者との戦いより恐ろしい物があるかのように口が重くなった……
「何があったの? 気になるじゃん!」
「私たちは正確に記録したいだけなんです、話していただけませんか?」
主人はしょうがなくといった風に残りの記憶を語った。
「ええ……そこまではただの人間でした、ですが私の体が途端に重くなり……その後、城が吹き飛んだ……いいえ、消えました……その跡の記憶はほとんどありません。なにか途方もない力が働いたのだとは分かりました……私は恐ろしくなり逃げました。誓って言いますが私は採用の際に魔王様に面接されたときでも恐れはありませんでした……しかしあの時ばかりは……」
主人から得られた証言はこれだけだった。
そして四人で私の部屋に集まる。
「で、どこまで本当ですの? あの魔族の話は」
アンは胡乱な目をして私に聞く。
「嘘は言ってないよ、一応。 なんか勇者が門番と戦ってて見んな棒立ちで見てたからさ、私がちょーっと離れて神聖魔法で辺り一帯を弱体化させた後ドッカーンと城ごと吹き飛ばしただけであの人のことは覚えてないかな? 多分城の外だったから神聖魔法で消滅せずに爆発からも逃げられたんじゃないかな?」
「正直……ちょっと可哀想……だね」
「そりゃあびびって当然だよ」
「魔王軍が正々堂々と戦ってる横で嫌がらせをするのはどうかと思うのですが……」
「戦いにルールなんてものは無いよ! あるとしたらそれは勝った方が後付けしたルールだけだよ」
私を見る目が少々冷たい気がするのは気のせいだろうか?
「でもさ、皆も結構今じゃ怖がられてるよ! 私に堂々と意見してるのを見られてたからね!」
実際町に入ってからは私を恐れるものもいたし、私に普通に話しかけられる皆は何者なんだと噂になっているようだった。
「私たちが魔族で噂に……」
「いやー有名って……困っちゃうな」
「まああれだけやらかしてればそうもなりますわね」
――記録
ウィルは魔界で破壊の限りを尽くし魔族からも一目置かれる存在である。
それに対する攻撃は自殺行為でありあらゆる組織、軍隊は彼女と敵対しないことを推奨する。
また勇者一行が魔王を倒したわけではないようであることを付しておく。
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