第19話:初手脅迫

「それで……どうやって行きますの?」

「簡単ですのであっという間にいけますよ?」


 アンは何かヤバイものを見るような目で見てくる。


「いえ、魔界との扉が開いたときは世界規模の大戦になったことが多いはずなんですけど……どうやって行くんです?」


「魔法……ですかね……」


「それって生きたままいけるやつだよね? 死んでから魔界に送られるとか嫌だよ!」


「大丈夫だと思います……私はウィルさま……さんを信じます!」


「それじゃちょっと扉を開くから部屋から出よっか?」


「「「え?」」」


 それではまるで『今ここに』扉を開くようなことを言われ流石に驚いている。

 魔族は生贄を大量に用意して人界へのとビラを開いて進行するらしいがご苦労なことだなと思う。

 私は最低限の装備とノートを持ち出して部屋を出る、皆もつられて出てくる。


「なんですの? それ?」

「あーゴメンこれは秘密なんだ……」


「あれだけ話したのにまだ秘密にしなきゃならないことがあるんですか……これ以上の秘密は聞かないですわ」


「長生きするよ、アンは」

 私は好奇心たっぷりのフロルを見やって言う。


 では始めましょうか……


『CONNECT APOCALYPSE』

 じゃあ実行っと……


「それじゃあいこうか?」

 私はさっきまで普通に話をしていた部屋のドアを開けた。

 そこに広がっているのは暗い空におどろおどろしい雲、そして広がる荒野……だった。


「みんな入った?」

「え、ええ」

「はいったよ」

「私も」


「じゃあ誰かが迷い込まないようにしとかないとね!」


『DISCONNECT』

 実行

 それまで日常と非日常を繋いでいた扉はあっという間に消えた。


「もうだいたい驚かないと思ってましたけど……やっぱりあなたは感覚がおかしいですね」


「そうかな?」

「そうだよ! 魔界って言うから入るだけでも一苦労だと思ったんだよ! 今部屋へ出入りしただけでつくとか思わないよ!」


「ちなみに今の扉はどこでも開けるので必要な物が増えたら買い足しに帰れますよ」


「流石に何でもありが過ぎるよ!」


 タルトでさえキャラが崩壊しそうなほど驚いていた。

「まあまあ落ち着いて、私だってホントに危険な場所なら連れてきたりしないよ?」


 アンは口をパクパクさせている……

 どうしたのかと思えば魔族が一人こちらを見つけて歩いてきている。


「わあああああ!!!!!!! もうダメ!!! 死ぬ! 死んじゃう!」

「ヤバいよ早く逃げないと!」

「神様……助けてください」


 三者三様に対処しようとしている中私は魔族に近づいていく。


 魔界は地上と違って太陽光が弱いため肉眼を持つ魔族はあまりいない、その上姿を変えることがよくある種族なのでもっぱら個人の識別にはその人の魔力の波を見て判断している。

 私は魔族に近づいて魔力を熾す。


 魔族は緑色の肌をしていたが遠目に見ても『青くなった』んだろうなあと分かる狼狽ぶりだった。


 私は念話で魔族に伝える。

『大魔法使いがまた魔界に来たと近隣に伝えなさい、後あの子達は私の仲間なのでもしもの事があったら魔族まとめてヤバいことになるのでそのつもりで』


 そう魔力を流し込むと魔族は大急ぎで飛んで逃げていった。


「さあ、あの伝令が私が来たのを伝え終わるまで食事にしましょうか。幸い皆さん結構な量の食料があるようなので……」

 私はよだれを垂らしていた、ただで食べられるご飯は美味しいのだからしょうがない。


 三人とも呆れたように装備を広げる。

「危険はなさそうですし、昼食にしましょうか」

「行き来自由だからね……こんなに食べ物要らなかったよ……」

「まあまあ、私みたいに死を覚悟してないだけマシでしょう」

 タルトは無事帰ることができなかったときのために手紙を書いて預けている。

 もしそれが届いた翌日に帰ってきたら両親の大目玉と周囲の白い目線に晒されるだろう。

 一番切羽詰まっているのはタルトだった。


 気分が落ち着いたところで私たちは昼食を食べた……みんな保存性優先で選んだ食材だったためしょっぱくて喉がとても渇いた。


 皆がそんなに深刻に捉えているとは思わなかったのでウィルの水筒はあっという間にからになった。


 そうして三人はようやく人心地つき、ウィルは噂が広まるのを悠然と待っていた。

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