第17話:魔界旅行は突然に

  春、学園に新しい後輩が入ってくる頃、出会いの季節。

 とまあそんなことは全く無く私たちは皆で集まって駄弁っていた。


「いよいよ私たちも来年で卒業なんですね……」


「私たちの有終の美を飾らないとね」


「それは死の間際に言う台詞だよ!」


「いいじゃないですか、私たちもいろいろな経験をしてきましたからね」


 でも……一つ問題があるのは……Eクラスは今年で無くなるということだった。

 私たちの下の年で無事皆がクラスアップをしたためにEクラスは空席となっていた。

 そしていよいよ今年はEクラスへの配属すら一切なくなっていた。


「私たち、いよいよ『先輩』にはなれませんでしたね……」

「いいことじゃないですか? 皆の技術が上がるのは歓迎することです」


「私は『先輩』って呼んでくれる可愛い後輩が欲しかったなぁ……」

 フロルも珍しく悲しげな顔をしている。

「でも、私たちの下の世代から強くなるのはいいことだと思います……」


 少し寂しそうにタルトは言った。


「じゃあ私たちは最後の『Eクラス』生徒として名を残しませんか?」


 私の提案に皆が驚く。

「え!? ウィル……あんた事なかれ主義の権化みたいなことをやってるのにどうしちゃったの?」


「私は賛成ですね! Eクラスここにあり! と学園の歴史に名を残しましょう!」

「私も自分の代で終わるのは悲しいけど、皆にせめて覚えておいて欲しいな……」


 今回は珍しくアントタルトが乗り気で、フロルが驚いていた。


 っていうか事なかれ主義の権化ってなんだろう?

 珍しく及び腰なせいかフロルの語彙力が増している。


「でも……なにをする? この学園出身の魔道士で名を残した人は多いよ? 埋もれるんじゃない?」


 そう、かくいう私も「私」だったころこの学園を出ている。

 当時は職業選択も何も無く卒業イコール戦場の酷い物だったが、先生方も戦場で簡単に死なないようにとできる限りの知恵と知識を与えてくれた。


「じゃあ私たちは……まだ誰もやっていないことをやりましょうか?」

「「「まだ誰も?」」」


 皆がキョトンとする、この学園も結構長いし大体のことはやり尽くしている。

 それでもまだ前人未踏な事……


「魔界へ行きましょう!」


 私の近所の弁当屋にでも行くような気軽な発言にみんな目を丸くしていた。


「いやいやいや! 魔界ってアレだよ! 超強い悪魔や魔神がのさばってる暗黒の地だよ! 流石に私でも死にたくはないって!」

 フロルはものすごくびびっている。


「私はウィルがいればなんとかなる気がするから賛成かな……」


 賛成はタルト、反対はフロル、私は提案をしただけなので多数決はアンの決定による。

 アンは何度か口を開こうとしては辞める、流石に怖いかな?


 そしてたっぷり時間を取った後アンは私のことについて聞いてきた。


「私は賛成です……もしかしたらですけど……ウィルさん……魔界に行ったことがあるんじゃないですか? それについて包み隠さず話すなら私は賛成します!」


「あー……そこ言う……?」

「でも聞かずにお別れって言うのも悲しいしいい機会なんじゃないかな」


 皆が意図的に避けてきていた話題……『私』の話が始まった。



 §




「そうだね、巻き込むなら話しておくのが筋だよね……でもこれから言うことは結構機密情報多いから他言はあんまりしないでね?」


「もちろんです」

「友達の秘密かぁ……」

「もうなんだって驚かないよ」


「私は魔王を討伐しました」


 私は一番大事な部分を一番はじめにハッキリと言った。


「「「ええええええええーーーーーーーーー!!!!!!!」」」


「それは本当ですか?」

「まあ魔界に行けば分かるしね、嘘でも何でもないよ」

「でも魔界は恐ろしい世界だって有名ですよ……」

「そこは不可侵って事になっててね、魔王が死んでも魔族はいるし土地は広大だからね。そこを自由にすると野心家の皆さんが熱心に行っちゃうからね」

「じゃあウィルって『勇者』なの?」

 ……

「いいえ、私はただの魔道士です、当時最強ではありましたがね……」

「じゃあ『賢者様』?」

「違うんですよ、確かに賢者様を仲間にしたこともありますが基本私は攻撃オンリーでしたから、あくまで魔道士です」


「……」


 少しの沈黙の後、アンが聞いてきた。

「でも……それが本当なら魔界の情報を流すのは不味いのでは?」


「だいじょーぶ! なにせちょっとお偉いさんなら公然の秘密だからね。不可侵って言うのは魔族と人間の争いを止めるためじゃなく、国取り合戦を牽制するためなんだよ」


「じゃあ魔界に行っても大丈夫なの?」


「個人的には治安の悪いスラムの方がよっぽど怖いですよ……魔物を切るのと人を切るのじゃどっちが苦しいかなんてわかりきってますし、それに私、魔界では有名人なので」


「二年間……二年間人類の救済をした人と普通に駄弁ってたの……?」

「なんとも時間の贅沢な使い方ですね……有力な貴族だって勇者を小間使いにはできないというのに……」


「そんなすごい人と私が友達……いいのかなぁ」


「まあそんなに気にすることじゃないってのは確かだからね! これからも友達でいてくれると嬉しい……かな」


 これは私の秘密の中でも大きいことなので黙っていたことを咎められるかと思った。


「ねえ! ウィル! サインちょうだいサイン!」


 えぇ……

 フロルは私のサインを欲しがっている、ゴメンね、魔王倒したときは別の名前だったんだ……

 とは言えず教科書に羽ペンでサインをするとフロルはそれを宝物のように個人用貴重品入れにそっと入れた。

「あ……あの……私の無礼は許してくれるんですか?」


「無礼?」


 私がそもそも気にしていないことが分かるとアンも落ち着いた。


 タルトは思い切りテンパっていた。

「あわわわ……勇者がクラスメイトで賢者様を魔王が倒してえええと!?!?」


「落ち着いて、私は私だし、できればこれは自分だけの秘密にして欲しいことだから。だからタルトが急に態度を変えて欲しくないんだ。私が何であれ、ね」


 タルトは頬を両手で叩いて意識をハッキリさせる。

「は、はい! じゃあお願いしますね!」


「もっと気楽でいいんだけど……急には無理かな?」


 そうして私たちは魔界への潜入計画を立て始めた。


 ありがたいことに三年生は研究と発表が全てで、先生方はそれを手伝いはするが講義は開かない。

 そんなわけで私たちは魔界への潜入計画を、未開の大陸への潜入記というタイトルで問題ないかを聞き問題なしと言われたので三年次は私たちの戦いと発見の年になるのが決定した。

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