第15話:ロストテクノロジー(本当に今回でロスト)

 冬の寒さが緩みつつある頃、私たちはフィールドワークをしていた。


 学園の生徒として何か成果を残さないと三年次に進級できないということなので、私たちは最近見つかった遺跡の調査をしていた。


「それにしてもグループで課題ができるっていいね! やっぱり友達は助け合いだよ!」

「あなたが誰かを助けたんですか?」

 辛辣なアンにも余裕の表情を崩さないフロル。

 どうやら個人での調査ではないので楽勝だと高をくくっているらしい。


「フロル、今回の遺跡は誰も調査してないんですよ! 確かに調査項目はその分少ないですけど何が出るか分からないんだよ!」


 私が少し脅かすとフロルは動揺した。

「な、何かってなにさ……まさかお化けとか……」

「古代人の幽霊くらいいるかもしれませんね」


 アンがその話題に乗ってくる。

「まままさか、おおおおばけなんててているわけないじゃん!」


 動揺しているフロルだが実際その通りだとは思う。

 もしも神や幽霊の類いがいるのなら私はとっくに集中攻撃に遭っているだろう。

 実際に私に攻撃を仕掛けたのは魔族だったが、その魔族の幽霊が復讐に来ない時点で幽霊などいないのだろう。

 ただ……私は悪い勘がしていた。


 決して幽霊や魑魅魍魎の類いではなく神話級の怪物が眠っているかもしれない……

 そういうモノとも戦ったことはあるが、非常に手こずった。

 その経験があるため最悪の事態を考慮してノートを持ってきている。


 ノートに入っている知識はあらゆる物があるようだが、この遺跡の事前調査をしようとしたところACCESS NOT PERMITTEDを表示されてしまった。

 直訳すればアクセスが許可されていませんということだ。

 このノートになぜアクセス不可能なデータがあるのかは不明だが、今まであらゆる知識を垂れ流してきた便利な存在が今回に限って頼れないというのは私にとって不安だった。


「不安そうですね、ウィルがそんなに不安なそうなの初めてですね」

「そうですね、ウィルさんなら大抵の敵にも勝てそうなのに……」


 いけないけない、一応このグループのリーダーは私なんだった、弱気は伝染する、以前の先頭でも負けたときは真っ先にトップが引き下がっていた。

 逆にトップが引かない組織は非常に手強い相手だった、なにしろ配下も逃げないのでお互い総力戦になってしまう、たいていの場合悲惨な結果しかもたらさない。


「ううん、大丈夫。ただ慎重にいこうと思ってただけだよ」


 今までだってなんとかなってきた、今回も大丈夫だろう、そう思わないと耐えられないような環境にいたのだ、今更遺跡の調査くらいで弱気になってはいけない。


「じゃあみんな、照明魔法とそのバックアップ用のたいまつの準備はいい?」

「ライトはいつでもつけられます」

「たいまつも大丈夫だよ、種火も持ってる」


 食料も大丈夫、数日の調査を予定しているが何も無いって可能性だってあるのだ、がっつり調査してたっぷりの情報を持って帰って先生達に披露しよう。


「じゃあ入るよ」


 入り口は真四角であり、石造りのようなのに不思議なことに継ぎ目がなかった。

 入り口こそ二人ずつに分かれて通ったが中の通路は四人で離れず歩ける程度の広さにはなっていた。

 少し進んだところでフロルが訊いた。

「ねえ、この壁のボタンってなにかな?」


 フロルが指さした先にはスイッチらしきボタンが壁に無機質についていた。

 押すか?

 この手のトラップは確かに多い、押すことで危険なことは多い。

 ただし私たちはこの遺跡の調査第一陣だ。

 前例が無い以上いつか誰かが押して確認する必要はある。


「フロル。慎重に押して、みんな周りに気を配っていつでも逃げられるように!」


 フロルがボタンに指を置き、ライトの魔法を最大輝度にして周囲を照らす。

 アント私が通路の前後を警戒する。

 カチリ

 フロルがボタンを押したところ……なにも起きなかった。

 遺跡がもう使われていないものである以上トラップにせよ設備にせよ機能を失っていることは多い、これもその類いだろうか……


 少しして私はタルトにライトの魔法を通常に戻していいと指示をした。


「タルト、魔力の管理もあるからライトは通常用に戻していいよ」


 タルトはきょとんとして言った。


「あれ? ウィルさんが補助してくれているんじゃないんですか? 私はそれほど魔力を使っていませんが……」


 おかしな事に気付いた。

 通路が明るいのだ、照明魔法の到達限度を明らかに超えている。

 よく見ると天井の所々が光っていた。


「このボタンは照明用みたいですね」

 私は調査報告に書き込む。


「でもさあ……この遺跡、古そうなのに完璧に動いたね。それにここ、人間が作ったんだろうけど、魔力ってこんなに長持ちするのかな?」


 これが魔法仕掛けの装置であった場合、通常魔力は補充しなければ割とすぐに空気中に拡散して消えていく。

 魔力設備は常に魔力の補給を前提として動いている。


 たまたまにせよこの設備が都合の良いものには変わりない。

「タルトはライトを消していいよ、魔力を温存しておいたほうがいい」


「わかりました」

 ライトが消えるが通路の明るさは変わらなかった。

「アン、広報にトラップの気配は?」

「無いですね……むしろ不気味です……」


 この施設、私は魔族の作り出した出先機関の一時滞在用程度に考えていたが、こうも都合がいいと人間が作った可能性を感じてしまう。

 この遺跡がつくれられた年代は明らかに数百年では訊かない場所だ、千年以上前に人間がこれほど高度な施設を……?


 引き返すべきだろうか?

 少なくとも学園の調査としてはこれで十分の点は取れる……この不気味な遺跡を放っておけと本能が告げている。


「ほらほら、いくよー」

 そんなことを考えている間にフロルがどんどん先に進んでいった。

 私たちもそれに連れられて歩を進める。


「ちょっとは用心して進んで、何があるか分からないんだから」

「そう? 私は何も無いと思うけどなあ……」


 実際フロルの勘は当たっており、その奥には扉が一枚あるだけで通路に分岐はなかった。


 その部屋の扉はやけに厳重で、黄色いプレートに黒い丸の周りに三つの円筒形をした図形が描かれていた。

 この図の意味は不明であるが近寄るべきで無い感じがありありとしていた。


 残念ながらドアは簡単に開くようになっておりレバーを引いて回すだけで開いた。


 その奥には壊れたガラスの円筒がいくつか設置されており、壁には無数の爪痕が残っていた。

 その部屋は白い壁をしていたが生き物の血らしき物がた数個こびりついており、かなりの面積が赤黒く染まっていた。


 どくん――


 ここはヤバイ、理性で半句本能が逃げろと伝えている。

「みんな……ここは崩壊済みに遺跡だった……いい?」

 私の本気の声音に皆が恐る恐る頷く、全員の同意を得た後で部屋の入り口まで移動する。


 そうして準備ができたら私は部屋の中央に向かって呪文を唱えた。


「グラビティ・クラッシャー」


 私が久しく使っていなかった禁呪で部屋は跡形もなく崩壊してドアの前まで岩でパンパンに詰まっていた。


「じゃあ……帰ろっか!」


 皆の足取りは課題が終わったというのに重かった。


「ねえ……アレってなんなんだろ?」


 誰もが気にしていたが口に出さなかったことをフロルがつぶやく。

 私は。

「アレはきっともう終わってしまった物の跡地だよ、それがなんなのかは分からないし分かりたくもない……でもね、アレに深く関わったら危ない、それだけは分かる」


 私はノートがあそこの情報を出さなかった理由について思案していた。

 アレは許可されていない、と書いてあったがもしかしたら、見ない方がいい……と言う警告だったのかもしれない。


 私は帰り次第レポートを仕上げノートを開いてあの遺跡について聞いてみる。

 帰ってきた返答は。

 NO DATA

 となんとも素っ気ない物だった……

 私はどんな影響が出るかも考えずそこにデータを書いた。

『そこは崩壊済みの遺跡であり誰が作ったかは不明』

 と素っ気に文章で書き換えたところあっけなくその情報で上書きされ、以降何度その遺跡について調べようと私の書いたデータを返すだけになってしまった。


 私たちのレポートは『可』をもらい、大きな功績ではないが進級することができた。


 驚くことにあれだけ派手にやったのにデータを書き換えた事による副作用は一切見られなかった。

 逆にそれが恐ろしくもあり、不気味だった。

 とはいえ今は進級祝いが先だろう……アレについて調べるには私の人生はまだまだ十分だ、少しくらい先送りしてもばちは当たらないだろう。

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