第14話:私の友達が超チョロい
本格的な冬がやってきて、校庭にはうっすらと雪が積もっている。
「うう……寒い……暖炉の使用制限は辛いです……」
タルトの言うとおり、今の学園は例年にない寒波で暖炉用の薪の使用制限がかかっていた。
「ねえウィル? 魔法で部屋を暖められないの?」
「サウナにすることはできますね」
私では少々魔力が強すぎる、加減しても二人の燻製ができかねない。
だからといって、二人の魔法では部屋を暖めるにはかなり足りない。
「やっぱりアンのところに行こうよ! あの家なら少しくらいあったかいはずだよ!」
「でもご迷惑では……?」
「フロル、お金の力で何でも解決するのはどうかと思うよ?」
私とタルトがやんわりとたしなめるもののフロルは布団にくるまって出てくる気配もない。
「さーむーいー! だったら私はこのままみの虫になるよ……春になるまで出てこないよ!」
「ワガママを言わない!」
そうは言っても寒いモノは寒いので、結局どうしようもなかった。
そうして私とタルトは最終的に折れてアンに家にお世話になることになった。
雪が溶けたら寮に帰ると言う条件付きでアンの家へと向かった。
アンの家についてドアをノックするとアンが転がり出てきた。
「皆さん! なんで私を頼ってくれないんですか! どうせフロルとか布団にくるまってたんでしょう! もっと私を頼ってくださいな!」
どうやらアンも寂しかったようだが、その発言にフロルが同意してしまう。
「そうだよね! 友達だもん! 困ったときは助け合わないと!」
アンと頷き合うフロルを見てこの二人の将来が少し不安になった。
アンは将来ダメ人間が酔ってきそうな感じがした。
「でも……迷惑じゃなかったですか? この冬は町の皆さん誰もが苦労してるみたいですから……」
「いいですわよ? 私は困った友人を助けるくらいの甲斐性はありますもの」
そういうアンの言葉に甘えて冬期休暇の間はこの家でお世話になることになった。
「温かいスープ! 焼きたてのパン! ホカホカのジャガイモ! 天国はここにあったんだ!」
思い切り増長するフロルに困ったが、アンがいいと言っている以上私たちにそれを止めることはできず放置していた。
「でも、ありがとねアン。 私たちも流石にちょっと寒くって困ってたの」
「意外ですわね、ウィルさんなら魔法でどうとでもできそうですけど?」
「まあ部屋が真夏より悲惨なことになってもいいなら寒さはしのげるんだけどね……」
夏はタルトまでもがダウンしていたので流石にあれ以上の熱波を起こすわけにもいかず、頼りの暖炉も使用制限、困っていたとアンに話した。
「あなたの魔法はいつも極端ですね……もう少し加減を覚えた方がいいと思いますわ……」
加減などしていたら生き残れない世界で戦っていたことは伏せておく。
もし魔王軍相手に本気を出さなければ消し炭にされてしまう、どちらも全力を出しての死闘を繰り広げたので加減というのはどうにも身につくことがなかった。
一応生活に必要な着火や水の生成くらいはできるが、環境を快適に使用と考えたことはなかったのでそっち方面の能力は無い。
命を守るのに精一杯で暮らしやすいというのは贅沢品だと思っていた。
魔王が倒されてから、魔法を生活に使用するようになって生活の向上のための魔法が私より早く研究されていった。
「私も生活用魔法練習した方がいいかなあ……」
私がそうつぶやくとアンが心配そうに言った。
「あなたの場合、覚えるまでの被害がすごそうですね……」
酷い言われようだが実際魔法なんてぶっ放すものとしか考えてなかったので反論もできない。
「さあ、食事も終わりましたし、お風呂に入りましょうか」
その言葉に私たちが驚く。
水自体はアンは調達できるがお湯を沸かすための薪が手に入りにくいはずなのだが……
それを察したのかアンが言った。
「私だって成長してますのよ」
そうして移動したお風呂には水が張ってあった、今にも凍りそうな水である。
「ヒートウォーター!」
アンの魔法であっという間に水はお湯になった、湯気がもうもうとしていて入浴に丁度良さそうな感じだ。
私がポカンとしているとアンが自慢げに言う。
「私だってやればできるんですよ……魔法はあなただけの専売特許じゃないんですわ」
なんだ、私が皆を守らないとと思っていたが、みんなちゃんと成長している。
私の取り越し苦労だったわけだ。
私はそれが嬉しくて微笑みながら体にお湯をかける。
皆も体を洗ってから湯船に浸かる。
「はぁー、生き返るよぅ……」
「やっぱりいいですねえ……」
「天国だなあ……」
「ふふふ、私のすごさが少しは分かりましたか?」
「「「はーい」」」
皆でアンを褒めてからのぼせそうになるまで温かなお湯に浸かっていた。
体が火照るくらい温まってからようやく上がって寝室へと行く。
アンは自室があるらしいがせっかく皆さんが来たので、ということで皆で寝ることになった。
暖炉には薪の代わりに魔石がくべてあり部屋はふわりと暖かかった。
「ねえウィル……その……あなたはなんだか私たちとは違う気がしますね……」
「そ、そうかな?」
私は後ろ暗い部分を疲れたように動揺する。
「普通の人は魔法をあんな派手にぶっ放さないんですよ、気付いてなかったんですか?」
「え! そうなの!?」
驚いた、魔法なんて戦闘用がほとんどだと以前は思っていただけに、生活に魔法を使うというのが理解できなかった。
「そうですよ、タルトの村で井戸を掘ったのだって魔法でしょう? あれだけやろうと思ったら結構な人数が必要ですよ?」
そうだったのか……以前は割と普通にあのくらいやってる人が多かったので感覚が麻痺していた。
「でもまあ……話してくれる気になるまでは聞きませんから……」
「ありがと」
アンの気遣いがありがたい。
「ただ、話してくれるならいつでも聞きますよ……それは覚えておいてください」
「うん」
そうして私は眠った。
「聞いてるんでしょう、タルトも、フロルも」
「私はなーんにも聞いてないよ?」
「私も何も聞いてないです」
「……おやすみなさい」
そうして残りの三人も眠りについたのだった。
§
「おはよー!」
フロルが元気に挨拶する、いつだって元気だなあ……
「おはよ」
「おはようございます」
「まったく……皆さん寝過ぎですよ」
アンは一人で早起きしていたらしい。
しっかりとパジャマから着替えている。
「帰属たるもの皆さんの見本でないといけませんからね」
しっかり者だなあ……
「あーあ……今日でこの楽園ともお別れか……」
フロルがわかりやすく愚痴る。
「あ、あの……皆さんがいいなら……」
アンが何かを言いかけたところでタルトがフロルを叱る。
「フロルさん、アンさんの好意で一番厳しい時期をしのげたんですよ、いつまでも甘えてはいけません」
タルトさんマジ正論。
それでも未練はあるらしいがフロルもそれ以上は言わなかった。
「じゃあ一足先の寮に帰っておくから、アンもまた顔を出してね!」
私がそう言うとアンは複雑な顔で肯定した。
「ええ……そうさせてもらいましょうか……」
そうして私たちはもはやおなじみの寮に帰ってきた。
それを見送ったアンは……
「やはり世の中はままなりませんね……」
と独りごちたのだった。
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