第13話:少しの将来、あと焼き芋
そろそろ秋も深まり待ちの街路樹の葉も黄色くなってきた頃、私たちは落ち葉を集めて焼き芋をしようとしていた。
事の始まりはタルトが実家から送られてきたというお芋をもらったからだ。
タルト曰く
「ウィルさんのおかげで村の人たちもかなり助かったって言ってますし是非一緒に食べましょう!」
いつものタルトらしないグイグイくる感じで誘われたので私たち皆で食べようということになった。
「落ち葉集めたよー!」
「私の方も大分集まりましたね」
「これだけあれば大丈夫だと思います」
炎魔法で焼いてもいいのだが、あまり加減の難しい方法でやるのは気が進まなかった。
アンに任せたらお芋は全て炭になっているだろう、フロルに任せたらおそらく生焼けになるだろう、私とタルトは素直に自然の炎で焼くのが一番美味しいと思っている。
なんだかんだで自然のモノは自然に任せるのが一番上手くいく……
落ち葉を集め着火にだけ小さなファイアビットを使う。
お芋は濡らした紙に包んで火の中に入れてある。
パチパチと燃える火を見ながら今まで「焼却」した思い出を考えていた。
これは私だけの思い出で誰の記憶にも無い、私も昔は随分安易にノートに頼っていたが、最近では自分の力でなんとかしている。
といっても、自分の力が魔王軍と戦えるだけの力だったことは誰も知らないわけだが。
そんなときフロルが思いがけない話題を出した。
「そういえばさー、王宮が魔王と戦った魔道士様を探してるんだって、お芋を包んだ紙に書いてあったよ」
お芋を包んだのは新聞だ、きっとそれに記事として書かれていたのだろう。
王様に探されるのは初めてではない、私はそれから逃げ続け、現在では少女の姿になっている。
今の私を探し出すことは不可能だろうが気を使うに越したことはない、どこから情報が漏れるか分かったものではないのだから。
建前上は英雄を探して褒美を取らせたいとかそんな理由だろう。
私はそこからまた戦場に駆り出そうという魂胆が透けて見えたのでこうして雲隠れした。
まあ王様が戦争をやるのを止めはしないが、私がそれに協力するのはとても気が進まないので、自分たちでなんとかして欲しい。
私は普通の人間として生きると決めたのでもう上流階級とは関係ない、あの小うるさいテーブルマナーや一言一句にケチがつく言葉遣いなど気にせず、こうして仲良くお芋を食べられるのだから戻る気などしない。
「そろそろ焼けたでしょうか?」
「ああ、そろそろだよね」
燃え尽きた落ち葉をかき分けるとお芋が四個出てきた。
熱々のお芋から包み紙を剥がしかじってみる。
「うん! ちゃんと焼けてる、おいしいね!」
「あつ……おいしい!」
アンは焼き芋は初めてらしく怖々とかじりついている。
「美味しいですね……こういったものは初めてですけど……こういう食べ方もあるんですね!」
「課題が終わって食べるものほど美味しいものは無いよ!」
フロルは未だに課題のことを引きずっているようだった。
本当に無事試験を通ってよかったなあ……
「ところで、そろそろ寒くなってきましたけどあの部屋は夏は暑いなら冬は暖かいんですか?」
アンが疑問を呈する。
それに対してフロルが愚痴る。
「それが冬はちゃんと寒いんだよねー、あの部屋は温度の変化を増幅してるんじゃないかと睨んでるよ」
冬は寒い、それは当たり前なのだがあの部屋は地上より気温が低い、あの部屋がなぜ都合よく丸々空室だったのかがよく分かる事情だった。
タルトが気落ちした様子で言う。
「冬は嫌いですねえ……あの部屋で布団かぶってたいんですけどねえ……」
タルトは気温の変化に弱いらしい……
「冬眠はやめといた方がいいよ、二度と起きる気がしなくなるから」
冬の布団は不思議な引力がある、あれから逃れるのは強い心が必要だ。
お芋の温かさが体を芯から温めてくれて……この四人で……今がずっと続けばいいのにと思ってしまうほどに優しい環境だった。
思えば誰かと友達になれたのは学園での初めての出来事だった。
「仲間」ではなく「友達」、その響きが自分が誰であったかを忘れさせてくれた。
「どうかしましたか……なんか……いつもとは違う悩みみたいですけど……?」
タルトが訊いてくる、私は悩みの種類まで顔に出てしまうのだろうか?
よくないなあ……皆に心配をかけてちゃいけない、しっかりしよう。
「何でもないよ。ただ……こうして四人で食べるお芋が美味しいなって思ってさ……」
私が遠い目をして言うと三人とも同意した。
「そうですね、来年もこうしていたいです……」
「でも、その次の年には卒業か……私はなんになってるんだろうね」
「私は世継ぎですね、納得はしていますが皆さんと離れるのは……」
私がしんみりさせてしまったので会話を打ち切る。
「ごめんごめん、美味しいお芋を食べながらするような話じゃなかったね」
そうして私たちは温かな心に、少しのさみしさを抱えながら四人で残された一年と少しに思いを馳せた。
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