第12話:最強の敵
暑さのピークを避暑地の山で過ごし、再び学園に帰ってきた頃、涼しい風が王都にも吹き始めていた。
私たち四人は暖炉を囲んで話し込んでいた。
アンもすっかりこの部屋の常連になってから久しくなる。
私たち四人は難問に挑んでいた。
いや、難問と言っても困難な仕事という意味ではない、純粋に学力という意味での難問だ。
私たちは一年生の頃はなんとか定期テストを通過していた、学園での授業を聞いていれば解ける問題ばかりだったし、それで困ることはなかった。
しかし、二年生にもなれば学力に求められる物が変わる。
授業で出されたことばかりではなく自身で解いた問題も評価されるようになっている。
そして私たちは……春期休暇も夏期休暇も遊んでいた。まあつまりはそういうことである……
「う~ん、頭がパンクしそう。誰が代数学なんて考えたんだろう?」
「昔の人ですよ」
「そういう答えは求めてないよ」
フロルがこの時の一番の問題だった。
彼女は魔法と剣技が得意であるけれど学力の方はさっぱりだった。
私はノートで勉強をしていたので完璧だった、あのノートは真理の全てを含んでいるらしく、書き換えられるだけではなく読み出すことも可能だと気付いた。
そうして私は少しのズルをして問題を解いていった。
アンもタルトもなんとか数学や錬金術を研究して未知の問題を解いたのがちゃんと評価されていた。
さて、我がグループの問題児フロルは……
「あ! 今日は食堂が割引の日じゃん! 急がないと……」
「フロル、それは先週ありましたよ、毎週割引されるほど景気がよくないのは知っているでしょう」
「そうだ! 今週はお祭りの日じゃん! バイトで稼がないと……」
「フロルさん、お祭りは先々週のことですよ……現実を見てください」
こうして必死に現実逃避を続けるフロルを机の前に固定して学力を向上させようと四苦八苦していた。
「あぁ! 数字が! 数字が襲ってくる!!」
そろそろフロルも限界のようなので息抜きに紅茶を入れてテーブルを皆で囲む。
「助かったぁ……あと三十分続いてたら正気を保てなかったよ」
フロルにはあまりにも厳しい仕打ちだったらしい……
とはいえフロルを後輩にするわけにもいかないので頑張ってもらうしかない。
さてどうするか……
そこで私は閃いた。
「フロルって剣術は得意だったよね?」
「そうだね……体力はあるんだ……体力だけはね」
そこで一つ助け船を出す。
「ねえフロル……人体についてのレポートはどう?」
フロルはキョトンとしている。
「人体って体のこと? そりゃあ剣術の基本で敵の弱点を狙うために勉強はしたけど……」
ノートによると人の心は頭に宿るらしい、今までは教会が心は心臓に宿ると言っているが、それについての研究ができる……未開拓の分野だ。
「難しい……?」
「戦いに強くなるおまけ付ならやる気は出ない?」
私がそう問うとフロルは頷いてやる気になったようだ。
「強くなれる……これは勉強じゃない、剣術の練習だ……」
必死に自己暗示をかけてなんとかやる気になってくれた。
「で、具体的に何をテーマにすれば良いの?」
「そうね……人が強くなるための生理学とかどう?」
私がそう言うと『強くなるため』ということで納得してくれた。
私は木剣でフロルと模擬戦をしながら相手に勝つための急所を教えていく。
今は弱点を狙うと言えば心臓を狙っているが頭を狙っても効果がある。
教会的な立場からすれば心臓をえぐるのが一番効率的だそうだ。
そこで私は間接の仕組みと効率的な攻撃手段、頭が非武装の場合そこを狙うことの効率の良さなどをたたき込んだ。
幸いフロルは強くなることには熱心だったので教えたことをどんどん覚えていった。
そうして数日、模擬戦と私の講義を繰り返した後一冊のレポートを書き上げた。
これは新しい視点だったので『一応』合格の印は出た……
ただしやはりズルをするとしわ寄せがどこかに来るのだろう、フロルのレポートは反教会的だという理由で公開されることはなく、封印をして記録にも残されず厳重に保管されたのだった。
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