第7話:気の毒な先輩

 夏が過ぎ、秋の涼しい風が吹いてくる時期になった。


「ふぅ……落ち着きますねえ……」

 タルトが隠居している老人のようなことを言っていた。


「ふふふ……」


 アンが何やら笑みを浮かべていた。

「どうしたの? いいことでもあったの?」


 私がアンに問いかけるとアンは嬉しそうに答えた。


「今年は豊作でして……領民からの不満もなく皆平穏無事に暮らせています」


「いいことだねー、食べ物がないと楽しいことも楽しめないからね!」


 衣食住、それが足りてようやく人は娯楽を楽しむ。

 最低限生きていくには食べ物が絶対に必要だ、それが十分にあるのはいいことだろう。


 そんな平和なひととき、上級生にお使いを言いつけられた。


「ちょっと薬草採取してきてくれる? 報酬は払うからさぁ」


 露骨なまでのいびりである。

 明らかに相場より少ない報酬からクエストを横流しして儲けを出そうというせこい考えが火を見るより明らかだった。


 そして私は普通に断ろうとした。

「いえ、私たちも忙しいので……」


「はぁ! 私たちが親切で仕事を紹介してるのに断るって言うの?」


 天然パーマの上級生は威圧感を出しながら圧力をかけてきた。

 その時、ふと私の脳裏に好奇心と反抗心が生まれた。


「分かりました、その仕事をさせてもらいます……」


「はい、んじゃお願いね」

 ポンと最終対象を渡して去って行く上級生。


「あの……大変ですね。手伝いましょうか?」


「何か感じ悪かったねー、私も手伝うよ?」


 私は二人を巻き込まないためにきっぱり支援を断った。ちなみにアンは寮にはあまり顔を出してこない。


「いえ、私にわざわざ任せてくれたようなので私だけでやります、ご心配なく」


 そう言ってさっさと部屋から出た。


 近くの丘で適当な草を袋いっぱいに放り込む、もちろんただの草で薬用効果などみじんもない物だ。


 袋がパンパンになったら寮に帰り袋を命令してきた上級生に手渡し即自室に戻った。


 さて、ここからが大事だ。

 窓から校庭を覗いて上級生が学園を出るところを確認する。


 そこでノートを取り出し「薬草採取した生徒が間違えて漆を大量に納品した」と打ち込んで実行した。


 彼女は一週間後顔に青あざを作りしばらくの間引きこもっていた。

 どうやらクライアントから焼きを入れられたらしい。


 同情の余地はないが漆を渡され傷にすり込んだ依頼人が少し気の毒だなと思った。

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