第4話:ワンちゃん(フェンリル)

 悪いことは起こるものだ……それはどうしようもないことが多い。

 神と呼ばれる存在がいるならそれは大変残酷なのだろう。


 三人の後輩に指導をした翌朝、それは悲鳴から始まった。

「グルルル」

 それは巨大な犬だった。

 ただの犬ではないのだろう、真っ白な毛並みに鋭い牙を備え……人の三倍の大きさをしていた。


「『アレ』を出せ下等生物!」


 その犬は人語を解していた。


 私はそれをフェンリルだなあと、なんとも気楽に見ていた。


 アイツは主人の魔王に忠誠を誓っていたが一発で気絶させ放っておいて魔王を討伐した。

 別にアイツが生きていたところで、また倒せばいいだろう程度にしか考えていなかった……


「わわわ、私が相手をしますわ」


 アンが真っ先にフェンリルと対峙していた。

 貴族たるもの平民を守るもの……と言うやつだろうか?


 私が倒す必要は無いがあの子達が傷つくのを見るのは胸が痛むのでここは前に出る。


「ちょ! ウィルさんは下がっていなさい!」


 アンが私のことを思ってくれていて止めようとするが私はずかずかと前に出た。


「お前は……? まさか……!? そんなはずは!」


 最後まで喋らせずに「えい」とアッパーをぶち込んだ。

 魔力で固めた拳は軽々とフェンリルのガードを破る。

 

 ズザザ……とフェンリルが押し戻される。


「その力……まさか本当に……」


 私は面倒なことを喋る前にとどめを打ち込んだ。

「おしゃべりは長生きできませんよ? フレイムウォール!」


 炎がフェンリルを包み焼き尽くしていく。

 さてと、アレで死んだかは分からないが手間が増えるな……と思いながらあっけにとられる観衆を前に自室に戻った。


 ノートを取り出し「ウィルは野良犬を追い払った」と本日の部分に打ち込み、実行キーを押した。

 現実に起きたことと乖離が少ないほど副作用が少ない、あの出来事を「蚊を叩いて潰した」にしたら随分と歪みが出るだろう。

 翌日――

 校庭に帰ると「ウィルさんって結構度胸ありますね! あの犬すっごい怖かったですよ!」

 タルトがそう話しかけてくる、よし、ちゃんと犬だと現実を書き換えられている。

「ウィルさん、あなた案外やりますね。野犬とはいえ結構なサイズでしたのに……」


 アンの関心かあら少し失敗をしていたことに気付く。

「野良犬」としか書かなかったのでフェンリルのイメージに引っ張られて「強そうな」野犬と認識されているようだ、ちゃんと「弱そうな」と入れておくべきだった……

 まあしょうがないですね……


 フロルが飛びついてきた。

「怖かったよお! ありがとう! ウィル!」


 認識に差はあれそれなりに強い犬という認識は統一されているらしい。

 フロルが恐れているのが犬嫌いだからなのかただ単に強そうに見えたのかは分からないが図らずも彼女に貸しを作ってしまったようだ。

「そんなに気にすることじゃないよ、あのくらいなら簡単に追い払えるって」


 そう言ってフロルの興奮を抑えようとしたが彼女はしばらく私の胸の中で泣いていた

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