第216話 力任せでも、無理にでも

「幸君。私、ここまでみたい。あとは、よろしくね──」


 サラの力、まさに救世主だ。

 サラは、残りの魔力を幸一にも渡した。魔力も全回復とはいかないが、ツァルキールとまともに戦えるくらいまでにはなった。


「これで貴様の羽はもがれた。お前が持っていた優位が、一つ消えたんだ」


 空を飛べなくなった以上、先ほどまでの様に空を飛ぶことができない以上、一方的の彼に攻撃を与えることはできない。


 地上からの砲撃では、スキができてしまい、距離を詰められる。

 接近するにも、離れて攻撃するにも、リスクを負はなくてはいけなくなってしまうのだった。


 しかし──。それでも彼女の脳裏に敗北の文字はない。歯ぎしりをしながら、聖剣を幸一に向ける。


「この程度、あなたの優位になったわけではありませんわ!」


 それでも、ツァルキールは強気な姿勢を崩さない。人間ごときに、自分の思想が負けるはずがない。

 そんな心を身にまとい、幸一に接近。


(まあ、考えてみれば、この戦いは互いの存亡をかけた戦い。あのような一方的な方法でつく訳がないですわ。わかりました。あなたたちの想い。私が全力で受けますわ。そして、全力を受け止めて、最後に勝利しますの)


 そう。女神らしく、彼らを、受け止めると決めた。


 ならば前だ。引けばその分仕込まれ、ますます不利になってしまうだけ。

 それは、幸一も同じだ。


「大天使ツァルキール。俺に対して真っ向から戦ってきてくれている。だったら、俺も前だ。真っ向から打ち合う。そして、絶対に乗り越えて見せる」



 そして、自らの魔力の供給を最大限まで高める。そのまま一気に前へと詰める。


 戦いは、互角だ。どちらも、力いっぱい剣を振り下りし、切り払う。

 受ける方は、目いっぱい力を入れて攻撃を受ける。



 互いに、存亡をかけた激しい打ち合い。

 そして、幸一と打ち合いをしながら感じる。


(考えてみれば、これは、私の使命ですの──)


 彼らは全力で、自らの未来を切り開こうとしている。


 今まで自分が支配していた運命。そこから、旅立ち自らの運命を切り開く戦い。


 まるで、両親によって保護されていた子供が巣立って、一人で道を歩むように。

 だったら、自分がなすべきことはただ一つ。


(あなたたちの、その想い。私が全て受け止めます)


 その想いを、自身の魂でもある聖剣で受け止めること。



 一方、幸一。


 逃げ出したいという恐怖心と戦いながら。真っ向から向きあいツァルキールと打ち合っている。

 エーテル体となり、人間を超えた存在となった彼。

 その力を最大限利用し、力に身を任せて戦う。


 もし、恐怖心に負け、幸一が引いてしまったら、ツァルキールはその瞬間一気にかかってくるだろう。


 その圧倒的な強さ。幸一に受けきるすべはない。

 そこで勝負は終わり。


 だから前に出る。普段であれば相手の奇策や罠を警戒して引いたりすることもあるが今回はそれもしない。


 それは簡単だ、そんな小細工。この戦いでは無意味だからだ。


 今、2人が纏っている、魔力の鎧。その力はもはや、小手先の攻撃など受け付けない。

 もしこれを打ち破るとしたら、それ以上の魔力を込めた攻撃を叩き込むしかないのだ。


 二人はそれを理解し、小競り合いや手先の戦術などない、単純な殴りあいとなる。



 先ほどとは比較にならないほどの圧倒的な強さ。


 互いに譲る気配がみじんも感じない。

 しかしツァルキールには揺るがない確信があった。


(それでも、勝つのは私ですわ‼️)


 ツァルキールにあって幸一にはないもの。それは、孤独の中で感じた強さだ。

 彼女は、人間ではとうに寿命が尽きてしまうような長い年月、ずっと悩み続けた。

 堕落し、欲望におぼれてしまう人類を、それでも彼女なりに救おうと戦ってきた。


 いつしか彼女は孤独となり、この世界の全ては敵となった。


(あなたとは覚悟の強さが違うのですわ)


 いくら幸一が覚悟を決めたといっても、それは周囲の人間を見てきて出した答え。

 イレーナ、サラ、青葉など。彼にはかけがえのない強さだ。


 しかし、ツァルキールが背負っているものはその比ではない。

 味わった絶望の深さも、心の底から決めた覚悟も彼とは比べ物にならない。


「だから、最後に勝つのは、私ですわ!」


 今までにない、大地に衝撃が走るような叫び。

 その声の衝撃が衝撃波となり、大気を割る。


 そして、幸一に向かって大きく聖剣を振る。そこからあふれるばかりに生じる衝撃波に幸一は驚愕する。


 それは津波のように四方八方に飛び散り、この空間一帯に波紋を生じさせた。


 後ろ足でなんとか引かずに踏ん張り、引くことなく、攻撃を繰り出す。大きく剣を振ると、同じくらいの衝撃波が出現。


 互いの衝撃波が衝突し、大爆発を起こす。結果は互角。

 そして向かい合う二人は、再びその剣をぶつけ合う。


 技術も駆け引きもなしに、互いの全てを掛けた、全力の殴りあい。

 人間ではない姿の二人が、想いを剥き出しにしてぶつけ合う。


 ツァルキールにとっては、一気に勝負を畳み掛ける絶好の好機


 しかし幸一はそれを許さない。

 吹き飛んで宙を舞う身体、すると魔力を全身に込め、一気に地面に合意に着地。

 地面を強く蹴飛ばし、即反撃に出る。



 決して守りには入らない。

 強引ても、力任せでも、無理にでも攻勢にで続ける。


(この戦い、守りに入った方が負ける)


 理解していた、逃げた瞬間に、そこで敗北だと──。

 リスクを承知で、一気に前へ出る。力任せの攻撃を目にも見えない速度で。


 さすがのツァルキールもこの一撃には耐えきれず、身体を折り曲げる。

 幸一はやっと出来たスキを見逃さず、追撃の連打を加える。


(何ですの? 凄まじい攻撃!)

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