第215話 信じあう二人

「フフッ──。どうしたんですか?」


 必死に後方に下がりながら攻撃を防ぐ幸一。


(速さも、パワーも違いすぎる。さすが大天使だ。)


 幸一はエーテル体であるため、何とか対応しているものの、防戦一方。

 とても反撃ができる状態ではない。かといってこのまま攻撃を受け続ければ魔力が尽き幸一の負け。


(どこかで反撃をしなければ、負ける。それは、ここしかない!)


 ツァルキールは再び聖剣を振りかざす。幸一はそれを受け止めて対応。

 そして、先ほどと同じ手首にスナップを聞かせて、その攻撃をかわしていく。


「馬鹿の一つ覚え、そんな手が通じると思いで?」


 しかし、ツァルキールだって同じ手を食らうはずがない。足に力を入れ、無理やり後方へ飛ぶ。

 そしてツァルキールは純白の羽を羽ばたかせ空中へ。


 幸一は自身の剣を振り、大きな砲弾上の攻撃をツァルキールに向かって打ち上げるが、それは容易にかわされてしまう。


「たとえ表情に出さないと気を付けていても、策を施している人間は出てしまうものです。素振りやしぐさに──」


 ツァルキールはその表情から幸一が策に出ていることを理解していたのだ。彼女は、ずっと人間たちを見ていた、だからその程度の違和感はすぐにわかるのだ。

 そして勝利を確信。ニヤリと邪険な笑みを浮かべたその時──。


「お前は、俺の罠にかかった!」


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!


 彼女の背中で大きな衝撃が走る。その痛みとダメージは、今までの中でもかなりの物だった。


 予想もしない衝撃。彼女の天使の羽がその衝撃に耐えられず、魔力が消滅し、背中から切断。

 そして肉体を落下させながら、ツァルキールは愕然とする。


「どうして、あの攻撃が打てる?」


 しかし、今は幸一への対応が先だ。

 すぐに魔力を操作し体勢を立て直す。地面の着地に成功し、幸一を見つめながら思考を張り巡らせる。


 幸一は、畳みかけようと、一気に踏み込もうとするが、ツァルキールもすでに構えのポーズをとっていて、有効打にはならない。

 ツァルキールは攻撃に対応しながら、どうして攻撃を受けたのか、羽がもがれたのかを考える。


「バカな!? すでに貴様は魔力を使いつくし、巨大な魔力砲など打てないはず。どんな手品を使ったのですか?」


 幸一は満面の笑みで答える。


「ああ、確かに俺は撃つことはできない。これは、サラの力だ。というか、この術式自体もね」


「サラ──。そいつか」


 そう、このアイデアはサラのアイデアだ。ユダとヘイムが戦ってるときに、いったん後方に吹き飛ばされた幸一に、途中から自分の元に駆け寄り、自分の魔力を使って、幸一の剣を経由して攻撃を飛ばせないかという策だ。


 これなら彼の魔力を使わなくても、ツァルキールに攻撃を飛ばせる。

 幸一の振りかざした攻撃に合わせて、精神を集中させ、攻撃を繰り出したのだ。


 そしてその魔法の砲撃はただ直進するだけではない。一定の距離まで直進すると、停止。ブーメランのように元来た道を跳ね返ってくる性質を持っていたのだ。


 サラは、自らが戦えない中で、幸一や他人の戦いをよく見ていた。そして、遠距離攻撃の場合、その攻撃をよけると、目の前の相手に意識が集中し、放たれた攻撃に対し意識から外れてしまうことを発見したのだ。


「それでも、表情を見れば相手が策を仕掛けているかはわかります。あなたの表情はどう見ても策がある人間のそれではなかった。万策が付き、ただ目の前の攻撃についていくのに精いっぱいだったはず」


 ツァルキールの疑問はまだ消えない。その幸一の反撃に、彼女は何千人もの人間たちを見ていて、そのしぐさや素振りから、その人物がどんな精神状態か理解できるのだ。



「確かに俺は万策が尽き欠けていた。負けるんじゃないかという心を必死に抑えていたんだ。それで距離を一回広げて、サラの攻撃に賭けてみたらこうなった。俺だって、サラがどんな攻撃を繰り出すのか理解できなかった。まさかあんな飛び道具を使ってくるとはね」


「わからないですわ。彼女にすべてをゆだねていたのですか? 何の攻撃が来るかわからないのに」


「ああ、あんたの観察眼。それを打ち破るのは不可能だ。けど、それは俺がどう戦術を立てるかを知っていることが前提だ。俺が知らないものは、いくら大天使といえども読むことはできないよな」


 口で言うのはたやすいが、実際に行うのは簡単ではない。下手をすれば息が合わず、足を非パってしまう可能性だってある。

 それでも、幸一はサラを信じていたのだ。


「でも、俺にだって戦ってきて、得たものはあるんだよ。特にサラは、気弱に見えても芯が強く、人を見る目がある。きっとサラなら、俺が見逃していたお前の盲点を見つけてくれるってな」


 幸一とサラは互いに信じあい、ずっと戦ってきた。だからこそ、こういった極限の状況で互いを信じあい、ツァルキールに致命傷を与えることができた。


 それは、人間の醜い部分をずっと見てきた。失望を繰り返したツァルキールにはありえない発想だった。


「だから。驚いているんだ。こんな砲撃の出し方があるなんて、想像もしなかったからね」


 そして、幸一はサラに視線を向ける。ふらふらで、息を荒げているのがわかる。

 サラは体力が強弱で、魔王魔力をすべて放出してしまったのだろう。



 サラの体がばたりと倒れる。彼女は、力を使いつくしてしまったのだ。


「幸君。私、ここまでみたい。あとは、よろしくね──」

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