オリエント編

第191話 オリエントへ

 幸一達がアストラ帝国を出発してから1週間ほど。


 馬車は草原地帯から乾燥したステップ気候の地帯に入り始める。


 カタゴトと揺れる馬車に幸一達はいた。

 長旅の疲れもあり、睡眠に入っている人もいる。それ事態は問題ではないのだが


(当たってる。どうしよう……)


 幸一の馬車は3人乗りで右にメーリング、左に手つなぎ役のイレーナという形になった。隣に異性がいて、それで夜を過ごすというのはイレーナで慣れていて問題はないのだが、気まずいことはあった。


 メーリングはすうすうと寝息をたてながら、幸一の右隣で夢の中に入っている。特に負担にはならないので、幸一話がままになっているが、彼の肘あたりにメーリングの胸が当たってしまっているのだ。

 彼女の胸は小さいメロンくらいの大きさがある。ぷるんとした柔らかな感触が、馬車が揺れるたびに柔らかくむにょんと触れては、その弾力で押し返す。


 苦笑いする幸一。そしてそれに気づいたイレーナがジト目で幸一を見つめる。


「ちょっと、困っちゃうよね。疲れているのに、起こすわけにもいかないし……」


「そうね……。でも、どちらかというとむしろ嬉しいんじゃないの?」


「そ、そんなことないって‼️」


 幸一は顔を真っ赤にしてあわあわと手を振る。

 そして、イレーナがぷくっと顔を膨らませる

 ぷいっとそっぽを向くと、それを幸一が何とかなだめる。


 最後の敵と戦う前。嵐の前の静けさという雰囲気が彼らを包み込む。

 そしてもう一人。


(ルーデル。やはり思い詰めているな──)


 ルーデルはただ前方を腕を組んで見つめていた。

 久しぶりの故郷への帰還。しかし、魔王軍の侵略にあい、廃墟と化した都市。


 何を考えているのだろうか。故郷の戦友のことだろうか。



 そして、彼らは、最後の戦いの地へ足を進めるのであった。








 さらに馬車で2週間ほど時が進む。


 山脈を超え、ジャングルを超え、たどり着いたのは広陵とした砂漠が広がる地帯。オリエント地方。


 にび色に閉まった廃墟。黒く濁りきった池。根元から折れている木。廃墟と化した石造りの建物がかつてこの地がオアシスであった事を告げている。


 今の時期は暑さも風も険しくなることはなく、都市部で着ているような服でも問題なく過ごせる。


 馬車はそんな風景が見える道で立ち止まった。

 そして馬主が、不思議そうな表情で質問し始めた。


「ついたよ。本当にこの場所でいいのかい? 今の集落はもう少し先だよ」


「構わん。この地に帰ってきた時はまずここに来ると胸に決めていたからな」


 馬主が質問をした人物。それは190cmくらいはありそうな身長、紫色で蟹とヒトデを足して2で割ったような髪型で幸一と同じくらいの年齢をした男。


 ラインハルト・ルーデルだ。


 滅び去った故郷。共に戦った同士は多くが既に灰と化している。


 ここは魔王軍との戦いでも、かなり激戦地だった場所だ。多くの同志たちが犠牲になった場所。

 彼らの無念、その想いを忘れないように、ルーデルは次にこの場所に戻るときは、必ずここで降りると決めていたのだ。


「感じる──、です。禍々しい雰囲気、戦場特有の血の気、殺気。」


 その地を遠目に見ながらささやくのは、兎のようなを毛耳をした少女、シスカだ


 サラはその光景を見て、この地に何があったかを想像し悲しい表情になる。


「けど、勝たなくちゃ。この世界のために、未来のために」


 そして何もない荒廃した大地を遠目で見つめるルーデル。

 彼の視線には何が映っているのだろうか。かつて共に戦った戦友なのか。それとも……



「とりあえず集落まで行こう。この近くなんだろ」


「ああ、近くに居住区がある。とりあえずそこに行こう」



 幸一が周囲に視線を配りながら言うと。周囲も賛同する。

 滅び去った街と、広陵な砂漠の大地を視界に入れながら、幸一達は近くにある集落へ足を進めていった。


 シスカはルーデルの隣で彼をじっと見ていた。ずっと一緒にいた彼から感じていた、祖国への思い。


 それを強く感じながら……。



 歩いて30分ほど。


 幸一達はルーデルがかつて住んでいた集落に到達する。



 家屋には。様々な人が住んでいる。


 というか、家屋というよりは難民キャンプに近い印象だ。

 ハリボテ板や、動物の毛皮などで作られた急ごしらえで造られた家が多いという印象だ。


 ルーデルが先頭に立って集落の中を歩くと──。


「帰った。状況はどうなっている」


「ルーデル兄ちゃんだーー」


「本当だ、帰ってきたんだ」


 ルーデルの姿を見るなり、歓喜の声で子供達が寄ってくる。


 とても嬉しそうだ。が──。


(この村の状況。あまり芳しくないようだな)


 幸一が彼らの姿を見てそう感じた。


 ほほは少し痩せこけていて、着ている服はぼろぼろ、汚れている。

 彼らの生活状況がよくわかる姿だ。


「ルーデルさん。帰っていらしたんですか」



 すると、前方から誰かの声。

 その方向から二人の人物がやってきた。ルーデルがその人物を視界にとらえる。


「ルーデル、帰ってきたのか」


「ロンミル、無事だったのか」


「ああ、俺はな……」


 紫色でとんがり頭。 ルーデルと同じような黒色の服を着た男だ。


 そしてもう一人。

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