第190話 別れの時間。熱い口づけ

 そしてお別れの時間。

 大通り。次の目的地、オリエント地方への馬車の前で幸一達はサリア、ルチアと別れの挨拶を始める。



「とりあえず。ありがとうッス。教会のみんなは、幸一達に感謝しているッスよ」


 ルチアの言葉通り、教会の人たちや、政府の人たちは幸一達に大変感謝していた。

 街は、危機を乗り越えたことで、教会と政府の間に団結の意識が生まれた。和解のムードが流れている。

 幸一は笑みを浮かべながら言葉を返す。


「いいや、それほどでもないよ」


 けど、それを選んだのは街の人たちだと。これは街の人が、自らの未来を選んだ結果なのだと。


 街のみんなが立ち上がってくれたからこそ幸一達はアイヒやバルトロたちとの戦いに専念できた。国王や教皇たちにはそう伝えた。


「これは俺たちだけで成し遂げたことじゃない。戦った人全員が、自信を持つべきなんだ」


「まあ、あなたらしい答えだわ。私、これからお世話になるけれどよろしくね」


 メーリング。フッと美しい微笑を浮かべ、幸一と向き合う。


「ありがとう、幸一さん。これはそのお礼の一つよ」


 そしてメーリングは幸一に顔を近づけ

 ──チュッ


 そっと口づけをする。

 予想もしなかった大胆な行動に幸一は思考をフリーズしてしまう。


 彼女の甘い香りが幸一の鼻腔をくすぐる。柔らかい唇。女の子ということを意識してしまい胸がドキドキする。


 それだけじゃない。


(胸が、当たってる)


 幸一の胸板には、マシュマロのような柔らかい感覚が二つ。

 彼女の小さいメロンほどある大きな胸が当たってしまっているのだ。


 周囲は、彼女の突拍子もない行動に度肝を抜かれる。


 メーリングが唇を離す。


「これからも、よろしくね」


 数十秒ほどであったが、幸一にとっては永遠とも思える時間が終わる。


 天国とも思える時間。


 しかし、それはすぐに地獄へと変わっていった。


「幸君?」


 幸一の額から冷や汗がだらだらと流れる。


「イ、イレーナ──これは」


「メーリングとキス……。どういうことなの?」


 そして溢れんばかりの殺気が後ろから感じ始める。イレーナだ。

 それを見てにやりと笑うルチア。


「ちょっと、修羅場になったっスね」


「イ、イレーナ。ごめんね……」


 あわあわとしながら幸一がイレーナを説得しようとすると──。


「私にも、キス。して──」


 イレーナも、負けじと幸一にキス。


 押しかけるように、ちょっと無理やりなキス。

 幸一は顔を真っ赤にする。


「もう……」


 数十秒でキスは終わり、イレーナが顔を話す。

 どこか拗ねているような、涙目な表情


「ご、ごめんね。イレーナ……」


 幸一はイレーナの頭を優しくポンポンとなでなでした。

 イレーナのどこか安心したような顔。それを見て、幸一はどこか安心する。


「幸一さん。めちゃくちゃ幸せそうっすね~~」


 ルチアは冷やかしのような言葉ではやし立てる。周囲にはほんわかとした雰囲気が包み込む。


「なんか、幸せね」


 嵐の前の静けさ。それを表わすのにふさわしい時間が、彼らの周りを過ぎていった。


 そして旅立ち。


「ルチア、必ず帰ってくるわ」


「当たり前ッス。また帰ってきたら、絶対3人で遊ぶッス。絶対約束ッス!」


 ルチアの呼びかけに、サラが元気な声で返す。


「うん。約束する! 絶対帰ってくるね!」



 そして馬車が発車。幸一達は出発する。その心は、絶対に勝って世界を救うという思いに満ちている。

 今までのどんな強敵よりもずっと強い、敵。


 そんな存在が待ち受けている地、オリエント地方へ。

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