第189話 狙いは、大当たりじゃ

「そうなのか……」


 そしてサラ達と一緒に彼はこの世界で活動を始めた。


「狙いは大当たりじゃ。この世界の価値観にとらわれず、素晴らしい活躍をしてくれた。さすがじゃ」


「つまり、私達の味方ってことでいいのよね」


「そうだと考えてよかろう。メーリング殿」


 その言葉に、この場は安堵の空気に包まれる。

 そして、そんな雰囲気のままユダは微笑を浮かべながら話しかけた。



「幸一殿、それから周囲にいるお主たち」


「なんだ?」


「お前さんたちの行動には感服じゃ。わしが予想もしないことを次々とやってのけてくれる」


 ユダの微笑。その言葉が、演技でも、作り話でもないのがわかる。


「別に? 俺は、たいそうな目的があるわけでもない。自分が正しいと思う道を信じて、ただ目の前の助けたい──。そんな思いを胸に戦ってきただけ。それで、気づいたらここにいたってかんじだな」


 幸一は、照れながら、何とか今までの気持ちを話す。そしれかぶせるようにメーリングも話し始めた。


「まあ、私もそれに近かったわ。サラを守りたい。その一心で強くなって、戦って、今はここにいるわ。けれど、いつの間にかそれがここまで大ごとになった。そんな感じね」


「あと、次に向かう場所じゃが──、オリエント地方に向かうとええ。理由は、わかるか?」


 その言葉に答えたのはサラだった。


「オリエント地方。かつては魔王軍の襲撃によって壊滅状態でした。しかし、最近になってとある人物と、その取り巻き達が来てから戦線を押し返したと」


「その人物は?」


 幸一の言葉にサラは表情を真剣なものにして答える。


「幸君が唯一敗北を喫した相手。マンエルヘイムです」


 彼の名前を聞いた瞬間、幸一は息をのむ。


「ヘイムか──。確かに、あいつなら、ウソというわけでもなさそうだ」


 彼の強さはこの中で1番幸一がよく知っている。決闘に近い形で真剣勝負をしたことがあったのだが、その強さは圧倒的だった。

 一方的な試合展開。幸一は絶対に負けまいと、意地で新しい術式を展開したものの、勝利することはできなかった。



 そして、強さだけではない。その瞳からは底知れぬものがあるのを幸一は感じていたのだった。


「そして、発見したんです。魔王軍が襲撃してきた方向の奥、砂漠の奥に彼らの本拠地が。そこに行けということですね。ユダさん」


「ご名答じゃ。さすがはサラ殿。情報収集は怠っていないのう」


「サラ。やるじゃない」


 メーリングが、ふっと笑って感心する。


「これでも、情報をいろいろなところから集めていたんだよ。幸君たちが戦っている間に」


 サラは笑みを浮かべ、自信ありげに言う。

 サラは、能力的にも、体力的にも、直接的な戦闘は不向きで戦力としては期待できない。それでも、彼らが戦っているのを見て自分も力になりたいと常に考えていた。


「ありがとうな、サラ」


「あの……。ちょっといい?」


 メーリングが、手を上げて話しかける。


「なに?」


「そのオリエント地方。私も行かせてほしいの。幸一さんとサラがいなかったら、私はバルトロの支配のまま立ち上がれなかった。あなたたちのおかげで私は救われた。だから今度は私がみんなの力になって、困っている人たちを救いたいの!」


 幸一とサラが彼女を見つめる。それは、ハッタリでも、出まかせでもない、彼女の本心。真剣な眼差しが、それを証明していた。


「わかった、これからも、よろしくね」


「ええ」


 幸一は特に疑問もなく首を縦に振る。


「それと、オリエント地方って、ルーデルの故郷だったよな」


「そう、ですね……」


 幸一は考える。彼は、どう考えているのか。


 そして事実上の最終決戦。おそらくは今まで戦ってきた天使や魔獣より強い。

 それでも、この世界のために負けるわけにはいかない。


 メーリングという心強い仲間を得た。これから先、どんな困難が待ち受けているのか。

 どんな困難が待ち構えていようと決して負けはしない。


 幸一達は、そう強く胸に刻んだ。





 最後、沈黙の空気を破ったのはシモンだった。フッと微笑を浮かべ頭を下げた。


「とりあえず、私はサリアの所に帰ります。皆さん、本当にありがとうございました」


「こちらこそ、ありがとうね。あなたが決断してくれなかったら、俺達は勝つことができなかった」



「あなたたちのおかげで、私はサリアのために、人類のためにもう一回頑張ってみようと決心することができました。直接干渉することはできませんが、これからも何かあったら協力させていただきます」


 そして彼女の体が消滅していった。


「幸君、これからどうする?」


「こっちは取りあえず片付いた。とりあえず戻ろう」


 こっちは疲労困憊。道に戻ればイレーナたちやほかの冒険者に遭遇する可能性が高い。彼らに守ってもらいながら本部へ帰って起こったことを話そう。



 こっちに向かって手を振っている人物が二人。


 イレーナとサリアだった。


「サリア、そっちはどう?」


「何とか片付いた」


 話によると、魔王軍の幹部と激戦の末、勝ったものの何とか魔力が残っているのはルーデルとサリアだけ。

 教会へ戻り現状を伝えに戻ったのがルチアとシスカ、そしてまだ戦えるルーデル。

 そして二人は超大型魔獣が現れたこの場所へ急行していったのであった。



「幸君。勝ってよかった!!」


 幸一がボロボロになっている姿を見るなり、イレーナがぎゅっと抱きついてくる。彼女の体を全身に感じ、幸一は思わず顔を赤らめる。


「そうなのか、ありがとう」


「と、とりあえず、ほかの状況を教えてくれないかしら、わかる程度で」


 その光景に驚きつつも、メーリングが話しかける。他はどうなのか? まだ戦わなければならないのか。


「それは大丈夫、街の方も、冒険者たちが頑張ってくれるから応援はいいって」


 イレーナの言葉に幸一はホッとする。さすがにもう戦える力は残っていからだ。


「とりあえず、教会へ向かいましょう。ルチアたちもそこにいるわ」


 そして彼らは満身創痍でこの場所を去っていく。


 激戦を終え、勝利の余韻に浸りながら。

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