第192話 見せたいものが、あるんです

 紫色でとんがり頭。 ルーデルと同じような黒色の服を着た男だ。


 そしてもう一人。


「ルーデルさん。お帰りなさい」


 ルナシー。

 シスカと同じくらいの身長。外見的に14歳くらいの女の子という感じだ。

 フードを被り、神秘的な形をした宝玉の首飾りを首にくくっている。

 どちらも、この村では幾度もピンチを救い、数多の魔獣たちを打倒してきた優秀な冒険者であった。


「ルナシーか、生きていたのか」



「ええ、ピンチになった時もあったけどね」


「それはよかった。お前を失ったら、俺たちは積んだも同然だからな」


「で、彼らが加勢に入ってくれた人たち?」


「そ、そうだよ。俺、幸一っていうんだ、よろしく」」


 そう言って幸一は社交辞令の握手を行う。

 幸一に続いて、イレーナたちが自己紹介をする。


「加勢してくれるというのならありがたい」


「そうだね、ロンミル」


 二人の表情に若干の笑顔がともる。そしてルナシーが村の奥に向かって歩き始める。


「この奥に参謀本部があります。そこで話をしましょう、ついてきてください」


 幸一達は彼女の後ろを歩いていく。歩きながら、ルナシーが話しかける。


「ルーデル。とりあえずはあなたが返ってきたことに感謝します」


「ああ、それなりの戦友を取り付けてな」


 ルーデルも彼女姿を見るなり、少しだが明るい表情になる。


「それで、状況はどうなっている?」


 彼の真剣な表情。つられるように彼女も真剣な表情に。


「魔王軍との絶望的な戦い。ここにいる者だけでは彼らに打ち勝つには不可能だと判断したあの日。援軍を取り付けるため、あなたを他国へ旅立たせた後、私達にはさらなる絶望にさらされました」


 彼女の言葉に、幸一達は表情をこわばらせる。この街の貧しそうな様子と、話を語るときの彼女の様子が、この言葉が嘘ではないと証明していた。


「強力な魔王軍の襲撃の連続によって、戦友たちは次々と倒れていきました。一時期は、戦力が壊滅状態となり、戦えるものはほとんどいませんでした」


 すると、彼女の表情が若干だが明るくなる。それを察したメーリング。


「でしたってことは、何か助け船があったってことなの?」



「その通りです。数週間前。突然助っ人が現れました。そしてその人物こそが──」


 すると幸一達の背後から、聞いたことがある声が聞こえはじめる。


「お久しぶりだな幸一。アストラ帝国では、この俺に勝るとも劣らない大活躍をしたそうではないか。素晴らしい素晴らしい」



 この声色に幸一は、警戒の表情を見せ始めた。


「マンネルヘイム。お前だったのか」


 イレーナとメーリングがはっとして驚く。


「ヘイムさん?」


「まあ、お前なら納得だよ」


「そうだろうそうだろう。なんたってこの俺様が加勢してあげたのだ。事態が好転する以外に起こるなど、あるわけがなかろう」



 その言葉に、ルナシーが一瞬戸惑うが、すぐに冷静さを取り戻す。


「事実その通りでございます。一時期は魔王軍によって、この集落すら存続が危うい状況でした。しかし、ヘイム様のご活躍によって、戦線を押し返し、現在は安定した状況となっております」


「当然だ。この俺様は世界で1番強いのだ。そんな俺が加勢に参ったのだ。事態が好転する以外に、どんな未来が待っているのだ」


(とはいえ、権力欲こそ高いが、こいつは平然と悪を行うようなやつではない。これから戦う敵のことを考えれば、好都合かもしれない)


 幸一は自らの感情を捨て冷静に考える。確かに彼は、手放しで信用できる存在ではない。

 しかし、実力はおそらく自分より持っている。


 これから戦う敵は、どんな強さを持つかわからない以上、戦力はあった方がいい。


「まあ、そうだな。よろしくな」


「ハッハッハッ。そうだろう。幸一」


 高らかに笑うヘイム。傲慢なのは相変わらずだ。


「お願いがあります。ヘイム様。これから、彼らに現状と今後について説明を行いたいのですが、ヘイムさんにも説明をお願いしたいです。ついていただけますか?」


「もちろんだ。彼らにも説明しなくてはなるまい。俺様たちが、絶望的な状況からどのようにして押し返したのか。どこまで敵を追い詰めているのか。俺様の英雄伝説をな!」


 鼻につく言葉だが、受け入れるしかない。


「私も、彼の名声は……、知ってる……です」


「私もよ。噂には聞いた事があるけれど、湧き出るオーラだけでその強さが理解できるわ。幸一君。まさか戦ったことあるの?」


「ああ、圧倒的な強さだった」


 その強さは、幸一が全力で戦い、最強の術式を使っても勝つことができなかったほどだ。

 ひそひそ声で会話をしていると、ルナシーが幸一の方に視線を向ける。


「率直に申し上げます。私、幸一さんやイレーナさんと同じです」


 その言葉に幸一は引っかかり、質問する。


「それは、どういう事かな?」


 問いただすような感覚。感覚で理解していた。

 その言葉だけでなく、彼女が持っていた雰囲気からもだったのだが。


「ルナシーだっけ。あなた、不思議な力とか持っていない? そんな気配がしたんだ」


 すると、ルナシーはどこか悟ったような、表情をして言葉を返す。


「見せたいものがあるんです」



 急ごしらえの家屋の集落をすり抜けるように、彼女達は進んでいく。

 そしてルナシーが作り笑いを浮かべながら、幸一に話しかける。


「幸一さんでしたっけ、とても感がいいですね」


「あ、ありがとう」


 幸一もまた、幾度の戦いを経験していくうちに、特別な力や強大な力に関する気配やにおいを感じ取れるようになっていたのだ。


「その通りです。簡潔に言いますと、私天使に選ばれた存在なんです。ねっメーリングさん、イレーナさん」


 その言葉に二人は驚いて言葉を失ってしまう。

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